日本輸血・細胞治療学会

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輸血の歴史

血液は生命の根元であるとされ、古代エジプトやローマの時代からヒトや動物の血液が若返りや病気回復の妙薬として利用されてきました。


1)輸血の始まり/動物からヒトへの輸血


1667年、フランスのドニ(JB. Denis)が子羊の血液を貧血と高熱の患者に投与したのが輸血の始まりとされています。しかし、4人目の患者が激烈な副作用により死亡し、以後輸血は禁止され、18世紀には輸血に関する記録は皆無でした。


2)輸血の成功第一例/ヒトからヒトへの輸血


1827年、ロンドン在住の産婦人科医ブランデル(J. Blundell)は弛緩出血で死に瀕している産婦10数名に対して、独自に作製した輸血器を通して夫の血液を直接患者に投与することで、若干の救命例を得ました。その当時は、血液型は発見されておらず、抗凝固剤や消毒法も開発されておらず、輸血の成功率は極めて低かったということです。


3)血液型の発見/輸血の黎明期


1900年、オーストリアのウイーン大学の病理学者のランドシュタイナー(K. Landsteiner)は、ヒトの血清の他人の血球に対する凝集反応の有無により、ヒトには少なくとも三つの血液型(今日のA、B、O型に当る)が存在することを発見し、翌年には、さらにAB型が追加されました。1940年には、もう一つの重要な血液型であるRh式血液型が同じグループにより発見されました。


4)抗凝固剤の開発/輸血の確立


1914- 1915年、独立した四つグループから相次いで、血液凝固に必須のカルシウムイオンのキレート作用があるクエン酸ナトリウムが輸血用の血液の抗凝固剤として利用できることが報告されました。クエン酸ナトリウムを使用して血液の保存が可能となり、時を同じくして始まった第一次世界大戦に保存血が使用されました。


5)輸血の発展/血液銀行の設立


1937年、シカゴのCook County 病院のファンタス(B. Fantus)は院内に血液銀行を設立し、保存血の製造・供給を開始しました。一回の採血量は500mlで、保存期間は10日間だったそうです。この世界初の血液銀行が呼び水となり、大量の血液を保存して供給できる近代輸血方式が確立されるに至り、その後始まった第二次世界大戦で多くの傷病兵の命が救われました。


6)現在の輸血/安全性の担保と献血体制の確立


1964年、ライシャワー(E. Reishauer)駐日米国大使が暴漢に襲われ、そのとき受けた輸血により輸血後肝炎を発症するという騒ぎとなりました。このいわば国の大恥といえる出来事が最後の後押しとなり、いままで売血に頼ってきた輸血用の血液を、日本赤十字社を中心とする献血一本で行くとの国の進路が宣言されました。1964年、B型肝炎ウイルス本体であるオーストラリア抗原の発見を始まりとして、HIVやC型肝炎ウイルスなどの輸血感染症を引き起こす病原体がつぎつぎ発見され、それらに対するスクリーニング法が献血に導入され、輸血の安全性は格段に向上しました。

現在私たち、輸血の恩恵を当たり前のように享受していますが、ここに至までには先人達のはかりし得ない努力があったからこそと認識していただければ幸いです。