
本学会は、1954年に日本輸血学会として設立され、70年以上の歴史を有します。これまでの長い歴史の中で、関ヶ原以西の地域からの理事長/会長就任は、おそらく私が初めてではないかと思われます。これは、本学会が厚生労働省や日本赤十字社と密接な関係にあったことが背景にあると考えられます。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行以降、社会全体のシステムが大きく変わりつつあり、本学会も変革を求められていると実感しております。私が理事長に選ばれたことの意味は、その変革の一助を担うことにあるのではと感じています。その一例がWebカンファレンスや学会のWeb配信の推進であり、今後積極的に取り入れていきたいと考えております。
2025年3月末現在、本学会の会員数は6,448名と徐々に拡大しており、医師や検査技師に加えて看護師の入会が増加しています。この多職種の参加こそが本学会の特色であり、強みであると考えています。2009年には学会名に細胞治療を加え、現在では造血幹細胞移植だけでなくCAR-T療法などへも関連分野が広がっています。多様な職種がさまざまな分野に関心を持ち、学会活動の幅が広がることは非常に喜ばしいことです。一方で、規模の拡大に伴い総会日程が長期化するなどの課題も生じています。働き方改革が求められる中で、face-to-faceとonlineのバランスをうまく取り、新たな学会のあり方を模索してまいります。
私が最も力を入れたいと考えているのは、学術面の底上げです。学会の本質は研究活動にあります。医療の質向上に資する活動も重要ですが、学会の使命は研究を通じて知を創造し発信することにあります。近年の日本の研究力低下は本学会だけの問題ではなく、研究時間の不足や研究費の減少などさまざまな要因があります。しかし研究は実験室だけのものではありません。多くの症例を正確に解析し、そこから新たな真理を導き出すことも極めて重要な研究です。医師、検査技師、看護師など多様な職種が協力することでこそ生まれる研究があると確信しています。
最後に、2028年には横浜で国際輸血学会が開催されることが決定しています。安全な輸血システムや効率的な細胞療法の提供、独自性のある研究成果など、日本の強みを世界に発信する絶好の機会です。この国際学会に向けた準備と盛り上がりを通じて、本学会自体の更なる活性化につながることを期待しています。会員の皆様お一人おひとりがその意識を持ち、新たな日本輸血・細胞治療学会の創造に向けてともに歩んでまいりましょう。
令和7年6月
一般社団法人日本輸血・細胞治療学会 理事長
松本 雅則
一般社団法人日本輸血・細胞治療学会 理事長
松本 雅則