日本輸血・細胞治療学会

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輸血のQ&A

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1.輸血関連検査
  • (1)赤血球の抗原と抗体、検査
      (血液型、不規則性抗体スクリーニング、交差適合試験など)

    コンピュータクロスマッチについて教えてください。
    A. あらかじめABO 血液型,RhD抗原型検査と抗体スクリーニング検査により,臨床的に問題となる抗体が検出されない場合には,交差適合試験を省略し,ABO 血液型の適合性を確認することで輸血は可能となる。
     コンピュータクロスマッチとは,以下の各条件を完全に満たした場合にコンピュータを用いて上述した適合性を確認する方法であり,人為的な誤りの排除と,手順の合理化,省力化が可能である。
     ① 結果の不一致や製剤の選択が誤っている際には警告すること
     ② 患者の血液型が2 回以上異なる検体により確認されていること
     ③ 製剤の血液型が再確認されていること
      ☆参考資料:「輸血療法の実施に関する指針」(改訂版), P-8
    ただし、患者が低頻度抗体を保有していた場合、コンピュータクロスマッチでは検出できず、交差適合試験においてのみ検出される。
    文責:谷 慶彦
    RhD血液型検査が陰性の場合、さらに検査をどの様に進めたらいいですか?
    A. 患者(受血者)のRhD血液型において、抗D試薬を用いて患者血球のD抗原の有無を検査し、陰性の場合には、患者は抗原陰性として取り扱い、D抗原確認試験は行わなくてもよい。
      ☆参考資料:「輸血療法の実施に関する指針」(改訂版), P-6
    実施可能ならば、D抗原確認試験を行い、D陰性、weak Dまたはpartial Dの確認をする。
    文責:髙橋 順子
    交差適合試験が陽性となる原因とその対処法は?
    A.
    文責:安田 広康
    ABO血液型のオモテ検査とウラ検査が不一致となる原因を教えてほしい。
    A.  技術的、事務的誤りがなかったとすれば、次のような亜型や病態等に基づく原因が考えられる。

    1.赤血球側に原因がある場合:オモテ検査が影響を受ける
    1) 疾患によるもの(白血病、Hodgkin病等ではABO抗原が減少することがある)
    2) 抗体で感作された赤血球(同種や自己抗体で感作された赤血球は、赤血球表面の負の荷電が低下し、凝集しやすくなる。例えば、寒冷凝集素価が高いと、抗Iで感作された患者赤血球はオモテ検査でも非特異的凝集を起こす)
    3) 血液型キメラ(異型輸血、血液型不適合造血幹細胞移植後等では部分凝集がみられる)
    4) ABO亜型(AxやBm等ではABO抗原の減弱,A3やB3等では部分凝集を起こすことがある)
    5) 汎凝集反応(感染症や血液疾患において、稀に患者赤血球が多くの血漿(血清)とも凝集を起こす反応)
    6) 獲得性B〔腸感染症等で細菌から放出された酵素が体循環に入り、A抗原(GalNac)がB様抗原(Galactosamine)に変化した後天性の抗原。正常B抗原(Galactose)と反応する抗B試薬の中にはこの抗原と弱く反応し、偽陽性を呈することがある〕

    2.血漿(血清)に原因がある場合:主にウラ検査が影響を受ける
    1) 不規則抗体(抗Mや抗P1等の低温反応性の抗体)
    2) 寒冷凝集素(寒冷凝集素病で出現する抗Iによって起こる非特異的凝集
    3) 連銭形成(高γグロブリン血症や蛋白異常のある場合にみられる。顕微鏡下では貨幣を積み重ねたような像が観察される)
    4) 移行抗体(母親由来のIgG性抗A、抗B)
    5) 抗A、抗Bの消失または欠如(造血幹細胞移植後、免疫不全症、新生児等)
    6) ABO亜型(抗A1、抗B、抗Hや抗HI等の自己赤血球とは反応しない不規則抗体を保有することがある)
    7) 腫瘍産生型物質による抗A、抗Bの中和(赤血球浮遊液の洗浄が不十分だと残存する型物質で試薬中の抗体が中和され、オモテ検査の凝集が減弱/消失することがある,卵巣腫瘍や印環細胞癌等)


    図 ABO血液型(オモテ・ウラ)検査に影響を与える亜型や典型的な病態
    -不規則抗体スクリーニング(生理食塩液法)の結果に基づくオモテ・ウラ不一致の原因鑑別-


    参考文献:臨床免疫学,Ⅳ.血液型と抗体,医歯薬出版,pp333-371,2011.
         新輸血検査の実際,第2章血液型と抗体,日本臨床検査技師会,pp5-21,2009.
    文責:安田 広康
    直接抗グロブリン試験が陽性となる典型的な病態は?
    A.
    文責:安田 広康
    ‘可能性の高い抗体’と‘否定できない抗体’とは何ですか?
    A.  ‘可能性の高い抗体’は、パネル赤血球との反応態度、すなわち反応パターン、反応の強さや反応温度などから推定します。特に反応パターンは抗体の特異性を表すため、抗体同定においては最も重要な情報です。そのため、まずパネル検査で得られた反応パターンと一致する抗原表の血液型(抗原)を探し、反応パターンと一致した抗原に対する抗体はすべて‘可能性の高い抗体’となります。
     もし、反応パターンと一致する特異性が容易に見つからなかった場合は、‘可能性の高い抗体’の推定を保留して、「消去法」を用い‘否定できない抗体’を推定します。その際、消去法で除外できない抗体特異性が複数残った場合は、抗体が複数存在する可能性があります。その場合は、反応条件の変更、反応性の単純化や酵素または化学処理赤血球との反応性の確認、さらには除外できていない抗体に対する抗原を1つのみ持つパネル赤血球で精査し、除外できない抗体特異性を絞り込み、最終的に‘可能性の高い抗体’として抗体同定します(図1)。
     なお、消去法は輸血を目的とする場合、37℃反応性の抗体を検出する間接抗グロブリン試験(IAT)の反応で実施すれば十分です。その際、生理食塩液法や酵素法の反応による消去法は省略できますが、これらの結果から得られた反応パターンは、主として‘可能性の高い抗体’の推定に用います。
     輸血には、原則としてIATで検出された‘可能性の高い抗体’に対する抗原(-)適合血を用います。なお、輸血では生理食塩液法のみで得られた‘可能性の高い抗体’は考慮する必要ありませんが、酵素法の‘可能性の高い抗体’は原則としてIATの結果を支持する特異性についてのみ考慮します。

    1) 日本輸血・細胞治療学会:輸血のための検査マニュアルver.1.2. p15-16,2011,
    http://www.jstmct.or.jp/jstmct/Document/Guideline/Ref20-1.pdf
    文責:安田 広康
    寒冷自己抗体がある場合の交差適合試験はどうすればよいか?
    A.  交差適合試験を行う際、血漿(血清)中に強い寒冷凝集素が存在すると、それらが自己赤血球を含むすべての赤血球と反応し、臨床的に意義のある「不適合」の凝集反応をマスクしたり、松橋・緒方現象1)により、臨床的に意義のある不規則抗体を自己赤血球に非特異的に吸着したりする可能性があり、交差適合試験の判定を困難にする。
     寒冷凝集素の影響をできるだけ受けないようにするため、採血前にあらかじめ注射器(シリンジ)や採血管を37℃に加温しておき、採血後は検体が低温にさらされないよう注意を払いながら速やかに遠心し、血漿(血清)と赤血球を分離する。分離後の血漿(血清)および患者赤血球は、37℃の状態に保つ。
     試験管法で交差適合試験を実施する場合は、使用する試験管、スポイト、患者血漿(血清)、患者赤血球浮遊液、供血者赤血球浮遊液、赤血球洗浄に用いる生理食塩液はあらかじめ37℃に加温しておき、患者血漿(血清)、供血者赤血球浮遊液、患者赤血球浮遊液(自己対照)を添加後、反応増強剤は用いずに、37℃で60分間加温(時々撹拌)する。加温終了後、37℃に加温した生理食塩液で3~4回洗浄し、洗浄終了後、加温した抗ヒトIgG血清を添加し、遠心判定を行う。
     高力価の寒冷凝集素が存在する場合、上記方法を行っても自己対照を含むすべての赤血球に陽性反応を示すことがあり、その場合は自己赤血球(酵素処理を行うのが望ましい)を用いて寒冷凝集素を吸収2)してから再度交差適合試験を実施する必要がある(ただし、最近3か月以内に輸血歴がある場合は不可)。

    参考文献
    1) 竹内直子, 平野武道, 編者 松橋 直: 輸血検査の実技, 医学書院, 98-99,1983.
    2) W.John Judd, Susan T.Johnson, Jill R.Storry: JUDD’S METHODS IN IMMUNOHEMATOLOGY THIRD EDITION, AABB PRESS, XI-J 444-446, 2008.
    文責:道野 淳子
    ABO型血液型判定で、オモテ・ウラが一致し、ウラ検査の凝集が弱いときの考え方
    A.  血液型検査で、ウラ検査の反応が弱い場合がある。1歳未満の児、高齢者、免疫グロブリン量低下1)または欠損、免疫抑制剤の使用、輸液や補液などによる希釈、などが原因と考えられる。また、近年衛生環境が整備されたことにより、日本人の抗A、抗B抗体価が低下している2) との報告もある。さらに、カラム凝集法を用いた血液型検査では、試験管法と比較してウラ検査の反応強度が弱いという報告もある3)。一方、まれではあるが、cisAB型など不規則抗Aあるいは抗Bを保有する亜型が原因となる場合もある。
     上記を踏まえ、ウラ検査において弱い反応を認めた場合、年齢、疾患、生化学検査データ、採血時の状況、過去の検査履歴などから、弱くなる原因がないか確認する。原因が定かでないときは、反応温度低下、反応時間延長、血漿滴下量増量などによって、反応の増強を試みる。ただし、不規則性抗Aあるいは抗Bを保有するまれな亜型を、否定あるいは確認するためには、抗Aあるいは抗Bを用いた吸着解離試験を実施する必要がある。
     1+以下の場合に再検を考慮するといった記載もあるが4)、ウラ検査の反応強度に影響を及ぼすフファクターが多数あり、一定の反応強度による精査基準を設けることができないため、検査方法、考え方等に基づき、各施設で精査基準および対応手順を定めておくことが望ましい。4)5)。

    参考文献
    1) 堀岡希衣 他:ABO式血液型ウラ試験における凝集反応態度と免疫グロブリン値についての検討, 日本輸血・細胞治療学会誌, Vol.57 No.(2):334,2011
    2) Mazda T, Yabe R,et.al., Differences in ABO antibody levels among blood donors: a comparison between past and present Japanese, Laotian, and Thai populations. Immunohematology. 2008;24(1):28.
    3) 日高陽子 他:カラム凝集法によるABO血液型うら試験弱反応検体の解析, 日本輸血学会誌, Vol.51.No.(6):565-570,2005
    4) JUDD‘S METHODS IN IMMUNOHEMATOLIGY :THRD EDITION
    5) AABB TECHNICAL MANUAL
    文責:道野 淳子
    PEG自己抗体吸着を行う時の注意点
    A.  自己抗体は、かならずしもそれ自体が溶血の原因となることはないが、強い自己抗体が存在する場合、隠れている免疫同種抗体を見逃したために、不適合血輸血による溶血性輸血副作用を起こす危険性がある。このような危険性を回避するために、血漿中の自己抗体を自己赤血球で吸着し、吸着後の血漿を用いて間接抗グロブリン法による不規則抗体検査を行うことで、適合血の選択が可能となる場合がある。
     自己抗体を吸着する方法として、自己赤血球に結合している自己抗体をクロロキンやZZAPを用いて処理し、その赤血球を用いて自己抗体を吸着する方法と、ポリエチレングリコール(PEG)を用いて直接吸着する方法がある1)。PEGを用いた自己抗体吸着法は、PEGの可溶性で水分を取り込む性質を利用し、自己赤血球を前処理することなく、自己抗体を吸着することができる。この方法は、PEG以外の特別な試薬を必要とせず、操作も簡便であることから、広く用いられるようになった。ただし、患者が3か月以内に輸血を受けている場合は、自己赤血球を使用することはできない。この場合、患者のおもな血液型表現型(Rh、Kidd、Duffy、Dia)がわかっている場合には、主要な抗原(Rh、Kidd、Duffy、Dia)が、可能な限り患者と同型のABO同型またはO型赤血球を用いて、(PEG自己抗体吸着と)同様の操作を行うか、自己赤血球中に同種血が混じっていないと思われる、遠心済み検体の赤血球上層部分の赤血球を用いて吸収操作を行う。また、自己抗体が強く、PEG自己抗体吸着法では吸収しきれない場合でも、酵素処理血球、グリシン・塩酸/EDTA-PEG法を用いることで、さらに吸着力を高めることができる2)。
     PEGを用いた自己抗体吸着を行うことで、免疫同種抗体の力価が、1管から2管低下するという報告もあり3)、弱い免疫同種抗体は検出感度以下になる可能性もあるので注意が必要である。RhやKiddなど溶血性輸血副作用を起こす可能性のある抗体に対する抗原について、患者が保有していない因子はその因子が陰性の製剤を選択し輸血することで、新たな免疫同種抗体の産生防止や混在する同種抗体による溶血性輸血副作用を回避することができる。

    参考文献
    1) 新輸血検査の実際 社団法人日本臨床衛生検査技師会
    2) 安田広康 他: 自己抗体を保有する患者のための不規則抗体検査と赤血球輸血, 検査と技術, 36: 1413-1419, 2008
    3) 延野真弓 他: PeG自己抗体吸収法が同種抗体に及ぼす影響, 日本輸血学会誌, 51: 565-570, 2005
    文責:道野 淳子
    抗A、抗Bモノクローナル抗体を用いた吸着解離試験を行うときの注意点
    A.  血液型検査で、オモテ、ウラ不一致となる場合の原因の1つに、Am、Bmといった亜型が考えられる。これらを証明するために、抗体試薬を用いた吸着解離試験を行う。吸着解離試験に用いる抗A、 抗Bは、ヒト由来が良いとされるが、現在市販のヒト由来抗血清試薬はなく、もしヒト由来血清を用いるとすれば、高力価の抗Aあるいは抗Bを保有する血清(妊娠歴のあるO型女性の血清など)を用いて行うか、輸入品を購入する必要がある。そのため、現状では市販のモノクローナル抗体を用いて吸着解離試験を行う必要がある。その際の注意点として、解離温度を56℃で行うと、モノクローナル抗体が破壊される製品もあり、52℃前後で解離したほうがよい、など製品によって特性が異なるため、メーカーの指示に従う。
     また、モノクローナル抗体は、ヒト由来に比べ非特異的反応が多いとされ、特に、血液以外のサンプルを用いた場合には、注意が必要である1)。吸着解離試験を行う際は、必ずO型赤血球を対照として同時に実施し、O型対照赤血球からの解離液には反応がみられないことを確認したうえで判定する必要がある。

    参考文献
    1) 亜型個体の爪試料によるABO型判定 伊藤正一 第20回国際輸血学会(ISBT)アジア部会 より
    文責:道野 淳子
    抗D試薬を購入する際の注意点は
    A.  現在市販の抗D試薬として、モノクローナル、モノ/ポリブレンド、およびポリクローナル抗血清がある。モノクローナル抗体を使用した抗体試薬を下記表に示す。
    各メーカー 免疫グロブリンクラス タンパク濃度 カテゴリーⅥとの反応
    生食法 AHG法
    試験管用 A社 IgM/Poly 6~8% しない する
    B社 IgM/IgG 7% しない する
    C社-1 IgM 4% しない
    C社-2 IgM/IgG 22% しない しない
    D社 IgM/IgG 1% しない しない
    E社 IgG 1% しない しない
    F社 IgM/IgG 5~7% しない する
    カラム凝集 G社 IgM
    H社 IgM
    I社-1 IgM
    I社-2 IgM/IgG

     いずれも体外診断薬として登録されており、添付文書に従い検査を行うことで、判定することができる。
     但しIgMのみの抗体は、D陰性確認試験を行うことができないので注意が必要である。また、直接抗グロブリン試験陽性の患者についてD陰性確認試験を行う場合は、あらかじめクロロキン2リン酸液またはDTT処理により赤血球上に結合しているIgGを除去し、直接抗グロブリン試験が陰性化したことを確認してから検査を行う必要がある。
     エピトープの一部を欠いたPartial Dは、使用するモノクローナル抗体により、反応しないものや反応性が異なるものがあり、Partial D分類のカテゴリーⅥ赤血球には、反応しないことを表記している試薬もあるが、一般の検査室レベルにおいて、Weak Dとの鑑別やpartial Dの分類を行うことは実際には困難である。
     試験管法を行う際の陰性対照は、メーカーの推奨する市販のコントロール試薬を用いるか、抗D試薬と同等のアルブミン濃度に調製した生理食塩液を用いる。
    文責:道野 淳子
    カラム凝集法を用いる場合の利点欠点
    A.  カラム凝集法は、カラム内に充填されたゲルやガラスビーズが持つフィルター効果を利用して、凝集赤血球と非凝集赤血球を分離する方法である1)。自動化が可能であり、検体量の微量化、定量分注、客観的判定による輸血検査の標準化、また間接抗グロブリン法における洗浄操作が不要、といった利点があり、カラム凝集法を原理とした全自動輸血検査装置が普及しつつある。
     一方で、試験管法に比べて血液型検査の所要時間が長く、超緊急時の血液型判定に時間を要する点や、検体中の微小フィブリン、カラム内の乾燥や凍結が判定に影響を及ぼしやすいなどの欠点があり、検体処理やカード(カセット)の取り扱いに注意が必要である。また、試験管法と比較し、直接抗グロブリン試験において陽性率が高い2)、ABO血液型ウラ検査の反応が弱い場合がある、低イオン強度溶液(LISS)をメディウムとしていることより、一部の抗体についてはPEGを用いた間接抗グロブリン法や固相法と比べて若干検出感度が低い場合がある3)4)等の特性があり、導入にあたってはこれらの利点、欠点、特性を十分に理解する必要がある。

    参考文献
    1) スタンダード輸血検査テキスト第2版認定輸血検査技師制度協議会カリキュラム委員会 編集 医歯薬出版株式会社 2007
    2) 菅野直子, 他:カラム凝集法による赤血球凝集反応-試験管法, ビーズ法, ゲル法の比較検討-.医学検査, 49(6):951-955,2000.
    3) 宮子 博, 他:自動輸血検査装置ID-GelStationの使用経験-試験管法及びAutoVueとの比較検討-.日本輸血学会誌, 49(5):666-672, 2003.
    4) 佐々木正照, 他 : 各種検査法における赤血球IgG性同種抗体の検出感度の検討, 日本輸血学会誌, 49(5):640-645, 2003.
    文責:道野 淳子
    交差適合試験用検体の採血日について
    A. 輸血あるいは妊娠による免疫から抗体産生までの期間についてはまったく予測ができない。従って、過去3ヶ月以内に輸血歴、または妊娠歴がある場合、あるいはこれらが不明な場合は、ABO血液型検査検体とは別の時点で採血した72時間以内の検体を用いて実施する。
     なお、過去3ヶ月以内に輸血歴、または妊娠歴がない場合は7日以内の検体を用いてもよいが、この場合もABO血液型検査検体とは別の時点で採血した72時間以内の検体を用いて実施することが望ましい。

    おもな国(学会)による交差適合試験における患者検体の有効期限

    1)日本細胞治療学会 赤血球検査ガイドライン・輸血療法の実施に関する指針より
    2)オーストラリア・ニュージーランド
    3)イギリス
    4)アメリカ
    5)国際輸血学会
    参考 輸血療法の実施に関する指針
       赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドライン改訂タスクフォース
       MEDICAL TECHNOLOGY 増刊号(2012年)
    文責:髙橋 智哉
    FFP、PCの交差適合試験の省略について
    A. 輸血用血液の不規則抗体スクリーニングは血液センターで実施され陰性のものが供給されていること、またPC、FFP中に赤血球はほとんど含まれていないことから、患者の血液型と同型の製剤を使用することを原則として交差適合試験の省略が可能とされている。

    ☆参照資料:輸血療法の実施に関する指針
    文責:日高 陽子
    抗Diaの抗体同定について
    A.  不規則抗体検査では、スクリーニングはDia赤血球試薬を使用するが、同定用パネル赤血球にはDia抗原が含まれていないことが多い。スクリーニング用赤血球でDia赤血球試薬のみ陽性の場合、‘可能性の高い抗体’に抗Diaが含まれる。さらに同定用パネル赤血球で全て陰性となった場合、消去法で‘否定できない抗体’に抗Diaが含まれる。このような場合、抗Diaを保有している可能性が考えられるが、1種類の赤血球との反応のみでは信頼性は得られない。
     Fisher確率計算法による統計学評価で抗体の信頼性を保証するには、少なくとも‘患者血清(血漿)と反応する3種類の抗原陽性赤血球と、反応しない3種類の抗原陰性赤血球’を必要としている。また、Harris&Hochman法では抗原陽性赤血球2(3)種類、抗原陰性赤血球2(3)種類、Kanter法では抗原陽性赤血球2種類、抗原陰性赤血球2種類が必要とされている。
     よって、抗体の特異性を確定するには、2~3種類の対応する抗原陽性赤血球と、2~3種類の対応する抗原陰性血と反応させることが望ましい。

    参考資料:今日から役立つ輸血検査業務ハンドブック、医歯薬出版
         新輸血検査の実際 初版、日本臨床衛生検査技師会
         赤血球型(赤血球系検査)ガイドライン、日本輸血・細胞治療学会
    文責:日高 陽子
    不規則抗体検査で全ての赤血球試薬と凝集を認めた場合どうするのか?
    A.  自己対照陰性の場合は、①高頻度抗原に対する抗体、②複数抗体の保有、自己対照陽性の場合は、①自己抗体単独、②自己抗体と同種抗体の共存、③直近の輸血により産生された同種抗体、④寒冷凝集素、⑤連銭形成、などが考えられる。

    高頻度抗体に対する抗体 (1)患者の抗原検査
    (2)抗体価の測定
    (3)酵素処理赤血球との反応性
    (4)臍帯赤血球との反応性
    (5)高頻度抗原陰性の赤血球との反応
    (6)専門機関への依頼
    複数抗体の保有 (1)別Lotの同定用試薬で検査
    (2)生理食塩液法および酵素法の実施
    (3)患者の抗原検査
    (4)専門機関への依頼
    自己抗体単独または同種抗体の共存 (1)直接抗グロブリン試験
    (2)抗体解離試験
    (3)自己抗体の吸着・不規則抗体検査
    寒冷凝集素 (1)生理食塩液法の実施
    (2)寒冷凝集素の吸着・除去
    (3)加温条件での検査(検体・試薬等)
    連銭形成 (1)顕微鏡による観察
    (2)生理食塩液置換法


    参考資料:新輸血検査の実際 初版、日本臨床衛生検査技師会
         Technical Manual 13TH EDITION <日本語版>、American Association of Blood Bancs編
    文責:日高 陽子
    Rhコントロールが陽性となった場合はどうするのか?
    A.  赤血球を3回洗浄した後に、再検査を行う。同様の結果が得られたら、抗IgG試薬と抗補体試薬を用いた直接抗グロブリン試験を行い、赤血球に結合している抗体を鑑別する。
     寒冷凝集素(IgM)による非特異反応であれば、加温した患者検体または温生理食塩液で数回洗浄した患者赤血球を使用し再検査を行う。
     温式自己抗体(IgG)による非特異反応であれば、患者赤血球に結合している抗体を解離したのち再検査を行う。

    参考資料:新輸血検査の実際 初版、日本臨床衛生検査技師会
         輸血のための検査マニュアルVer.1.2、日本輸血・細胞治療学会
    文責:日高 陽子
    間接抗グロブリン法で陰性の場合、IgG感作赤血球を使用するのはどうしてか?
    A. 間接抗グロブリン試験で陰性の場合は、IgG感作赤血球を加え陽性になることを確認する。凝集を認めない場合は、検査結果の信頼性は得られず再検査となる。凝集を認めない原因として、洗浄操作の不十分、抗グロブリン試薬の添加忘れや劣化などがある。
     異常γグロブリンや高γグロブリン血症の患者検体は、反応増強剤(反応促進剤)にPEG(polyethyleneglycol)を使用すると、IgG感作赤血球による確認検査で陰性となることがある。PEGの添加により免疫グロブリンが沈殿し、洗浄操作が十分に行われないため抗グロブリン試薬が中和されるためである。このような反応を認めた場合は、他の反応増強剤(反応促進剤)を使用して再検査を行う。

    参考資料:新輸血検査の実際 初版、日本臨床衛生検査技師会
         輸血のための検査マニュアルVer.1.2、日本輸血・細胞治療学会
         輸血学 改訂第3版、中外医学社
    文責:日高 陽子
  • (2)血小板の同種抗原と抗体

    本邦で臨床的に意義のあるHPA抗体にはどのような抗体があるか
    A. 現在、血小板型は27種類発見されている。臨床的意義として以下の病態に関係している。
    母児血小板型不適合による新生児血小板減少症(NAIT):胎児が持つ父親由来の血小板型により、母親に産生されたIgG抗体が、胎盤を経て胎児に移行して胎児の血小板と反応し血小板減少症を引き起こす。重篤な場合には児に脳内出血が生じる。日本ではHPA-4b 抗体(79例)、-5b 抗体(23例)、-3a抗体(22例)、-4a抗体とNaka抗体(イソ抗体)が各8例検出されている。まれに-6b抗体や-15b抗体それに-21b抗体等が検出されている。
    血小板輸血不応状態(PTR):血小板輸血患者に同種抗体が産生されると、その後の血小板輸血が無効になることがある。無効例の多くはHLA 抗体が原因であるが、まれにHPA 抗体が原因となる場合がある。日本でHPA-2b 抗体は80年代にPTR症例から高頻度で検出され、血小板輸血において重要なHPA抗体とされてきたが、昨今ではPTR症例から殆ど検出されなくなった。HPA-3a、-5a(5b)それに-6bやNaka抗体(イソ抗体)等が報告されている。
    文責:森田 庄治
    新生児同種免疫性血小板減少症(NAIT)の診断基準と治療について
    A. NAITの診断基準は「児に出生時から血小板減少が認められる」「母親にITPの既往がない」「児に血小板減少の原因となる基礎疾患がない」「児の血小板数は2~3週間で回復する」「母親血清中からIgG同種抗体(HLA、HPA、ABO)が検出される」特に父親血小板(児血小板)と母親血清との交差適合試験により、母親血清中の同種抗体(HLA、HPA、ABO)を確認することが重要である。NAITは出生時に血小板減少および出血傾向に気づく場合が多い。多くは一過性で経過観察(無治療)により回復する例も少なくない。
    日本では血小板輸血の目安となる基準は特に示されていないが、欧米諸国では2万~5万/μLがランダム血小板輸血の目安とされ、γ-グロブリン単独またはランダム血小板輸血との併用投与も治療の選択肢とされている。一般的に母親血清中の原因抗体を特定し、且つ適合血小板を入手するまでには時間を要するので、急性期の重篤なNAITでは、ランダム血小板を選択する。
    文責:森田 庄治
    HPA抗原・抗体にはどのような検査法があるか
    A. HPA抗原検査はMPHA法、PSIFT(FCM)法、MAIPA法等の血清学的検査により実施されてきた。血清学的検査では特異性に優れた良質な抗血清を必要とするが確保は容易ではない。多くのHPA抗原は1塩基置換によって、抗原性が決定されているので、現在では血清学的検査に代わり遺伝子による型検査(PCR-SSP法、- SSO法、- RFLP法等)が主流となっている。遺伝子による型検査ではオリジナルで報告されている塩基配列をベースに検出しているため、変異箇所と同一部位にオリジナルと異なる塩基置換がある場合には、誤判定の可能性が生じる。Naka抗原(CD36分子)については欠損の遺伝的原因の多くがexon4領域の478C→Tの1塩基置換に由来しその変異を検出している。この他にもいくつかの変異が報告され、C478T以外の変異ではNaka陽性と判定されるので血清学的検査でも行う。
    HPA抗体検査はMAIPA法、PSIFT(FCM)法、MACE法、ELISA法、SPAA法、MPHA(M-MPHA)法、蛍光ビーズ法等がある。MAIPA法は欧米で汎用されている国際標準法である。本邦ではMPHA法が汎用されている。近年、遺伝子導入による組み換え抗原を用いたHPA 抗体の検査が報告されている。
    文責:森田 庄治
  • (3)HLA抗原と抗体

    HLA抗体は、輸血にどのような影響を与えるか?
    A. 患者がHLA抗体を保有する場合と、輸血用血液製剤中にHLA抗体が存在する場合で、病態は異なります。代表的なものとして、患者が保有する場合は、発熱性非溶血性輸血副作用(febrile non hemolytic reaction:FNHTR)と血小板輸血不応(platelet transfusion refractoriness:PTR)、輸血製剤中に存在する場合は、輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury:TRALI)が関連します。
     日本赤十字社の調査ではFNHTRとTRALIは対照的です。非溶血性輸血副作用を起こした全症例1,002例の患者サンプル中にはHLA抗体が28.2%検出されるのに対し、FNHTR症例に限って見ると 45.7%に検出されました。一方、輸血用血液製剤中のHLA抗体は、副作用に関与した製剤すべての中では20.7%に検出されるのに対しTRALI に関与した製剤中では41.2%に検出されました。検出された抗体すべてが相手方の抗原と反応する組合せではないため、HLA頻度に基づいた関与を推定すると、患者が保有する抗体はFNHTR 26.0%、輸血用血液製剤中の抗体はTRALI 21.5%と半分程度の割合になります。さらに、FNHTRの関与をHLAクラスⅠ抗体に限定すると、15.1%になります。このようにHLA抗体の関与は全体の2割程度で、残りの8割前後はそれ以外に原因があることになります。これまでの対策として、FNHTRは、血液製剤の白血球除去で発熱性サイトカインの放出を抑え、輸血反応の軽減を図っています。TRALIは、男性献血者由来中心の血漿製剤でHLA抗体保有製剤を排除しています。血小板製剤は男性献血者だけでは需要を賄えないので、別途、HLA抗体を排除する対策が検討されています。
     一方、PTRは、輸血の有効性に関連し、通常の血小板輸血において翌日の血小板数増加が2回以上にわたって得られなくなる状態のことを言います。血小板輸血は複数回行われることが多いため、度重なる免疫感作でHLA抗体が産生されます。これが、輸血された血小板膜上の抗原と結合して患者の網内系で破壊されることにより,投与量から期待できる血小板輸血後の回収率及び半減期が低下します。補正血小板増加数(corrected count increment:CCI)1時間値=7,500/μL、24間値=4,500/μLを指標とし、下回るような場合は、HLA適合血小板(濃厚血小板HLA-LR「日赤」)輸血で改善が期待できます。

    参照資料:
    輸血情報1107-128. 日本赤十字社
    血液製剤の使用にあたって(第4版)。じほう、p65-70、2009
    文責:中島 文明
    HLA とは?
    A.  ヒトの主要組織適合性抗原(human leukocyte antigen: HLA)であるHLAは、はヒト第6染色体短腕上の遺伝子にコードされている糖蛋白質である。HLAは分子構造と機能からClassⅠ分子とClassⅡ分子に大別され,特殊な細胞を除き基本的にあらゆる細胞で存在している。HLAは自己と非自己を見分ける免疫の重要な役割を担っている。病原体である細菌やウイルスなどの蛋白由来のペプチドと結合し、T細胞を活性化することで免疫応答に関与している。
    参考文献:移植・輸血検査学 第2章 組織適合抗原 P26-28
    文責:杉本 達哉
    主要組織適合抗原遺伝子複合体(主要組織適合性遺伝子複合体):MHC とHLA は同じか?
    A.  生体には自己と非自己を認識して、非自己を排除する免疫システムが備わっている。この免疫システムは個々の個体がもつタンパクのアミノ酸配列の違いにより、自己と非自己を認識している。このようなタンパク質の違いは個々のゲノムの多様性によって決められており、この多様性を構成するのに重要な遺伝子の複合体を主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex: MHC)という。
     ヒトにおいては、頻回に輸血を受けた患者や経産婦・妊産婦の血液中に白血球を凝集させる抗体が発見され、その抗体が認識する抗原を支配する遺伝子のことをHL-A(human leukocyte antigen:ヒト白血球抗原)と命名された。その後、WHOの命名委員会にてHL-AはHLAと記すことになった。HLAは抗原性の高いアロ抗原であることや組織分布がマウスのMHCであるH2と類似していたことから、HLAはヒトのMHCと理解されてきた。
     MHCとHLAは同意語で使用されることが多いが、HLAと記している場合はヒトに限定した内容を表している。
    参考文献:移植・輸血検査学 第2章 2.1.1 MHCとHLAの関係 P22
    文責:杉本 達哉
    HLA 検査について
    A.  HLA検査は90年代前半まで血清学的な方法として広く用いられていたリンパ球細胞毒性試験(Lymphocyte cytotoxicity test,以下:LCT)が利用されていたが、90年代の後半からはDNAを利用した検査が主流となった。現在では調べたいHLA領域のDNAをPolymerase chain reaction法(以下:PCR法)による増幅からHLAのタイプを決定する検査が主である。HLA検査キットにはHLA抗原型レベル(HLA第1区域)を判別する低解像度(Low resolution)のものと、HLAアリルレベル(第2区域)までの判別を目的とする高解像度(High resolution)のもの、さらにその中間型(middle resolution)に大別される。
     HLA ClassⅠ分子遺伝子群の特定の遺伝子領域は、α1及びα2ドメインの多型性を示す領域であるエクソン2とエクソン3をPCR法で増幅し解析の対象としている。(更に詳細にHLAを調べる検査法ではエクソン4の領域も対象に含む)HLA ClassⅡ分子遺伝子群はα1ドメインないしβ1ドメインの多型性を示す第2エクソンを対象としている。HLA検査法(DNA検査)はPCR-SSP法、PCR-SSO法やLABType SSO法など種々の方法が開発されている。
    参考文献:HLA検査と血液型不一致時の輸血の対応 MEDICAL TECHNOLOGY Vol.40 No.8 2012 P846-850
    文責:杉本 達哉
    HLA 抗体の交差反応性グループ(CREG)とは?
    A.  HLAの抗原は特定のアミノ酸配列により細胞膜上に存在しており、そのアミノ酸配列により抗原決定基(エピトープ)が構成される。HLAは多型に富んだタンパク質であり、HLA抗原には複数のエピトープが存在する。HLA型の中には共通のエピトープを保有しているHLA型があるため、その共通エピトープを認識する1種類の抗体で複数のHLA型と反応することがある。この複数のHLA型グループを交差反応性グループ(Cross Reactive Group; CREG)という。代表的な共通エピトープとしてBw4やBw6がある。
    参考文献:宮崎 孔:HLA 抗原エピトープを考慮したHLA 抗体の解析.
         平成22年度日本組織適合性学会 認定HLA検査技術者講習会テキスト.P10-19
    文責:杉本 達哉
    HLA 表記の4種類の区域について
    A.  HLA分子をコードするHLAアリルを識別するために「:(コロン)」で区分けする命名規則がある。区分けは4種類あり、それらの規定する内容は以下の通りである。
    第1区域:関連する血清学的HLA型あるいはアリルグループによりアリルを判別する領域 (例:A*02, A*11, A*24, A*33)
    第2区域:同一の血清学的HLA型あるいはアリルグループ内で、アミノ酸変異を伴うアリルを判別する領域 (例:A*24:02, A*24:20)
    第3区域:アミノ酸変異を伴わない塩基置換(同義置換)が認められるアリルを判別する領域 (例:A*24:02:01, A*24:02:02)
    第4区域:HLA分子をコードする遺伝子領域以外での塩基置換を伴うアリルを判別する領域 (例:A*24:02:01:01, A*24:02:01:02)
    参考文献:日本組織適合性学会 HLA標準化委員会:HLAタイピング結果のアリル表記法と結果報告の原則 MHC Vol17, No.2
    文責:杉本 達哉
  • (4)母子免疫と小児(新生児)の検査

    Rh(D)陰性妊婦の取り扱いは?
    A.  妊娠初期に、妊婦健診で必ず血液型をチェックしている。この際、妊婦がRh(D)陰性であれば、配偶者がRh(D)陽性である可能性が極めて高いため、Rh(D)不適合妊娠の可能性が高い。Rh(D)陰性妊婦に対して、過去に分娩歴があるか、もしくは妊娠7週以降まで児の生存が確認された流産歴や人工妊娠中絶歴がないかを問診する。上記に該当すれば、胎児由来のRh(D)陽性の血液にすでに感作されている可能性がある。そのため、出産歴がなくても、妊娠初期に間接クームス試験を行なう。間接クームス試験陽性者に対しては、その後の抗体価の上昇につき頻繁に検査を行なう。間接クームス陰性者や初回妊娠例に対しては、少なくとも妊娠28週前後ならびに分娩前に抗Rh(D)抗体陰性を確認する。間接クームス抗体価が16倍以上の場合には、胎児貧血症の可能性を考慮する。以前は、採取した羊水の450nmでの吸光度(OD450)を用いてビリルビン値を測定し、Lileyの表から胎児貧血の程度を推定してきたが、最近では超音波パルスドプラ法を用いた胎児中大脳動脈最高血流速度(MCA-PSV)計測値が胎児ヘモグロビン値推定に有用であることが判明したため、臨床汎用されている。胎児血球による感作は妊娠28週以降に増えるため、希望者には母体感作予防目的で抗D免疫グロブリンを妊娠28週時に投与する。分娩時に母子間血流交流が起こりやすいので、児がRh(D)陽性であることを確認した後、分娩後72時間以内に抗D免疫グロブリン1バイアル(250µg)を母親に筋注する。なお、児がRh(D)陰性であれば、抗D免疫グロブリン投与は必要ない。またそれ以外にも、妊娠7週以降まで児生存が確認された自然流産、妊娠7週以降の人工流産や異所性妊娠、妊娠中の羊水検査や胎児外回転等の処置後、交通事故などによる腹部打撲後にも、感染予防のために抗D免疫グロブリンを筋注する。
    文責:齋藤 滋
    血液型不適合が疑われるのは、どのような場合か?
    A. 次のような場合に血液型不適合を疑う。
    ① 母児の血液型検査で不適合
    ② 前児が同種免疫性溶血性貧血の既往
    ③ 母体の不規則抗体スクリーニング検査
    ④ 児の貧血
    ⑤ 早発黄疸または重症黄疸
    ⑥ 児の交差試験で陽性
    など。
    文責:塚本 桂子
    不規則抗体スクリーニングで陽性の場合、注意すべき抗体は?
    A.  不規則抗体スクリーニング検査で陽性になった場合は、パネル赤血球を用いて抗体の同定を行う。抗D抗体のほかは、抗E抗体、抗c抗体などが臨床的に重要である。
     不規則抗体スクリーニングが陽性でも、同定された抗体の中には、Lewis抗原に対するLea抗体またはLeb抗体やP抗原のように、新生児血球での抗原の発現が弱いため、新生児溶血性疾患の原因になりにくいものもある。
    文責:塚本 桂子
    新生児血小板減少症で必要な検査は?
    A.  新生児とくに出生直後は、血小板減少により点状出血や紫斑のほか、易出血性や止血困難などが顕著にみられる。血小板減少症が疑われたときは、血小板数を測定するとともに、母体薬物使用・感染症・母体ITPや自己免疫疾患・新生児同種免疫性血小板減少症(neonatal alloimmune thrombocytopenia : NAIT)、児の要因として胎児発育遅延(FGR)・ウイルス感染・DIC・出血による消費の亢進を疑い、精査を行う。
     NAITは、母児間血小板型不適合による血小板減少症であり、母体が血小板抗原が陰性、児が陽性の時発症しうる。日本人ではHPA-4b抗体によるNAITが多く、日本人の抗体陽性率が高い。治療は、状態がよければ無治療で経過観察する。症状が認められ改善しない場合ガンマグロブリン投与が行われる。血小板数が2-5万/μL以下で、出血傾向などの症状が認められるとき、血小板輸血を行う。
    文責:塚本 桂子
    ITP合併妊娠での母体および胎児・新生児に必要な検査は?
    A.  ITP母体では、PAIgGと血小板数を検査するが、母体のPAIgG値と胎児の血小板数は相関しない。胎児・新生児の血小板数を測定することは、出血、特に頭蓋内出血を予防するために重要であるが、胎内で血小板減少により頭蓋内出血を起こすことは稀であり、臍帯穿刺はリスクが高いため血小板数を測定することをルーチンで行うことは推奨されていない。
    文責:塚本 桂子
    ABO不適合による新生児溶血性疾患(ABO-HDN)が疑われる場合にどのような検査を実施すればよいか?
    A.  ABO不適合による新生児溶血性疾患(ABO-HDN)が疑われる場合にどのような検査を実施すればよいか?

    ABO-HDNは母親がO型で、児がA型かB型の場合に起きることがあり、診断基準を下記に示す。

    ABO不適合による新生児溶血性疾患の診断基準(文献1より)
    1.早期黄疸を伴う間接型高ビリルビン血症
    2.母児間にABO不適合の組み合わせが存在すること
    3.母親血清中のIgG抗Aまたは抗B抗体価が512倍以上
      以上の3条件を必要とし、確定のためには下記のいずれかを加える
    4.ABO同型成人赤血球による間接抗グロブリン試験陽性
    5.児の抗体解離試験陽性
    6.児血清中の抗Aまたは抗B抗体価が8倍以上

     実施すべき検査は
    ① 母親と児のABO血液型検査
    ② 母親のIgG性抗Aまたは抗Bの抗体価測定
    ③ 臍帯血のIgG性抗Aまたは抗Bの抗体価測定
    ④ 臍帯血の直接抗グロブリン試験
    ⑤ 臍帯血の抗体(抗Aまたは抗B)解離試験
    等があげられる。
    母親のIgG性抗Aまたは抗Bの抗体価測定ではIgM性抗体の影響を除外するため、ジチオスレイトール(DTT)または2-メルカプトエタノール(2-ME)で処理した被検血漿(血清)を用いる(文献2)。臍帯血の抗体は母親から移行したIgG性抗体であるので、この処理は必要ない。
    また児(臍帯血)の直接抗グロブリン試験が陰性でも、抗体が解離される場合があるので解離試験は実施することが望ましい。

    参考文献:1.厚生省特発性造血障害調査研究班報告:ABO不適合による新生児溶血性疾患の診断基準.1992
         2.新輸血検査の実際.社団法人 日本臨床衛生検査技師会,p.132~135,2011
    文責:川畑 絹代
    妊婦の不規則抗体の抗体価測定はどのように検査すればよいか?
    A. 抗体価の測定は、生理食塩液-間接抗グロブリン試験(反応増強剤無添加、37℃60分インキュベーション)を実施する。反応増強剤の使用による施設間差や検査者間差を避けるためである。指示赤血球として、不規則抗体への対応抗原がホモ接合体の赤血球とヘテロ接合体の赤血球のどちらを使用すべきかについては定められていないが、抗体価の推移を正しく評価できるよう、毎回同じ表現型の標的赤血球を用いる。また、技術、抗原などの誤差を考慮し、前回測定の妊婦血清(凍結保存しておく)を並行して測定することが望ましい。

    参考文献:周産期・新生児の輸血治療.メジカルビュー社,p131,2009
         新輸血検査の実際,社団法人 日本臨床衛生検査技師会,p133,2011p133,2011
    文責:川畑 絹代
    新生児の輸血前検査で注意すべき点はなにか?
    A. 1.ABO・Rh(D)血液型検査
    ① 新生児では、抗体産生能が未熟でウラ検査が陰性となる場合が多いため、ABO血液型はオモテ検査のみの実施で決定してよい。
    ② ABO抗原の発達が未熟でオモテ検査で部分凝集を示す場合があるため、判定には注意する。
    ③ Rh(D)抗原は成人と同等に発現している。
    2.不規則抗体検査
     新生児では同種抗体を産生することは極めてまれであり、新生児が保有する抗体のほとんどは母親からの移行抗体である。また、新生児溶血性疾患が疑われる患児では原因抗体が児の赤血球に結合し、血清中の抗体濃度は低下していることがある。そのため、新生児の不規則抗体検査は母親血で実施するのが望ましい。
    3.交差適合試験
    ① 交差適合試験(主試験)はIgG抗体を検出できる間接抗グロブリン試験で実施する。
    ② A型、B型、AB型の赤血球輸血をする場合は、母親から移行したIgG性抗Aまたは抗Bの有無に注意する。その存在が疑われる場合は、O型赤血球を用いて主試験を行う。
    ③ 児のABO血液型が母親と適合する組み合わせ(例:母A型、児O型)の場合、検体は母親血で代用することができる。

    参考文献:輸血療法の実施に関する指針.厚生労働省医薬食品局血液対策課
         小児輸血学.中外医学社,p28~31,2006
    文責:川畑 絹代

2.日本赤十字血液センターについて
  • (1)供血者(献血者)について(基準、採血を含めて)

    問診ではどのような質問をするのですか?
    A. 問診票の質問内容です。
    (1) 今日の体調は良好ですか。
    (2) 3日以内に出血を伴う歯科治療(抜歯、歯石除去等)を受けましたか。
    (3) 3日以内に薬を飲んだり、注射を受けましたか。
    (4) 次の育毛薬/前立腺肥大症治療薬を使用したことがありますか。
    プロペシア・プロスカー等(1ヵ月以内)、アボダート・アボルブ等(6ヵ月以内)
    (5) 次の薬を使用したことがありますか。
    乾せん治療薬(チガソン)、ヒト由来プラセンタ注射薬(ラエンネック・メルスモン)
    (6) 24時間以内にインフルエンザの予防接種を受けましたか。
    (7) 1年以内にインフルエンザ以外の予防接種を受けましたか。
    (8) 次の病気や症状がありましたか。
    ① 3週間以内-はしか、風疹、おたふくかぜ、帯状ほうしん、水ぼうそう
    ② 1ヵ月以内-発熱を伴う下痢
    ③ 6ヵ月以内-伝染性単核球症、リンゴ病(伝染性紅斑)
    (9) 1ヵ月以内に肝炎やリンゴ病(伝染性紅斑)になった人が家族や職場・学校等にいますか。
    (10) 6ヵ月以内に次のいずれかに該当することがありましたか。
    ① ピアス、またはいれずみ(刺青)をした。
    ② 使用後の注射針を誤って自分に刺した。
    ③ 肝炎ウイルスの持続感染者(キャリア)と性的接触等親密な接触があった。
    (11) 1年以内に次の病気等にかかった。
    外傷、手術、肝臓病、腎臓病、糖尿病、結核、性感染症、ぜんそく、アレルギー疾患、その他
    (12) 今までに次の病気にかかったか、あるいは現在治療中ですか。
    B型肝炎、がん(悪性腫瘍)、血液疾患、心臓病、脳卒中、てんかん
    (13) 今までに次の病気にかかったことがありますか。
    C型肝炎、梅毒、マラリア、バベシア症、シャーガス病、リーシュマニア症、アフリカトリパノソーマ症
    (14) 海外から帰国(入国)して4週間以内ですか。
    (15) 1年以内に外国(ヨーロッパ・米国・カナダ以外)に滞在しましたか。
    (16) 4年以内に外国(ヨーロッパ・米国・カナダ以外)に1年以上滞在しましたか。
    (17) 英国に1980年(昭和55年)~1996年(平成8年)の間に通算1ヵ月以上滞在しましたか。
    (18) ヨーロッパ(英国も含む)・サウジアラビアに1980年以降、通算6ヵ月以上滞在しましたか。
    (19) エイズ感染が不安で、エイズ検査を受けるための献血ですか。
    (20) 6ヵ月以内に次のいずれかに該当することがありましたか。
    ① 不特定の異性または新たな異性との性的接触があった。
    ② 男性どうしの性的接触があった。
    ③ 麻薬・覚せい剤を使用した。
    ④ エイズ検査(HIV検査)の結果が陽性だった(6ヵ月以前も含む)。
    ⑤ 上記①~④に該当する人と性的接触をもった。
    (21) 今までに輸血(自己血を除く)や臓器の移植を受けたことがありますか。
    (22) 今までに次のいずれかに該当することがありますか。
    ① クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)または類縁疾患と診断された。
    ② 血縁者にCJDまたは類縁疾患と診断された人がいる。
    ③ ヒト由来成長ホルモンの注射を受けた。
    ④ 角膜移植を受けた。
    ⑤ 硬膜移植を伴う脳神経外科手術を受けた。
    (23) 現在妊娠中または授乳中ですか。
    この6ヵ月以内に出産、流産をしましたか。
    文責:佐藤 博行
    献血の同意書は?
    A.
    1. 献血に伴う副作用
    2. 個人情報の取り扱いについて
    3. 血液の検査等について
    4. 血液の有効利用について
    以上の項目について説明して問診票に自署して頂くことになっています。(添付文書「同意書」参照)
    文責:佐藤 博行
    献血におけるVVR(血管迷走神経反射)の予防対策は?
    A.
    1. 過去の献血に於いて2回連続してVVRを発症し、そのうちの1回が重症の場合や、入院を必要とした場合は採血しない。(VVR重症度分類参照)
    2. 緊張を解くことに努め、採血前に水分摂取をお願いし、採血中は初期症状の早期発見の為の綿密な観察を行うと伴に採血後の十分な安静休憩を促す。
    3. 献血の会場を離れて気分不良などが現れた場合はすぐにしゃがむか、横になること、不安があれば血液センターに連絡すること等を記載したパンフレットを献血者全員に配布している。このパンフレットには献血後の過ごし方として、十分な休憩と水分補給を基本として、採血直後は男性であっても座位で排尿し、献血後2時間以内の入浴やサウナの使用や、飲酒、喫煙、激しいスポーツの制限等に言及している。
    文責:佐藤 博行
    VVR重症度分類は?
    A.
    分類 症 状 血圧(max,mmHg)
    採血前→測定最低値
    脈拍数(/分)
    採血前→測定最低値
    呼吸数(/分)
    軽症 気分不良、顔面蒼白、あくび、冷汗、悪心、嘔吐、四肢皮膚の冷感 120以上→80以上
    119以下→70以上
    60以上→40以上
    59以下→30以上
    10以上
    重症 軽症の症状に加え、意識喪失、けいれん、尿失禁、脱糞 120以上→79以下
    119以下→69以下
    60以上→39以下
    59以下→29以下
    9以下
    文責:佐藤 博行
    採血前検査による採血適否判断
    A. 採血前検査の結果による採血の適否については、以下を参考に問診票の質問事項に対する献血者の回答を踏まえ、【安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律施行規則】別表第二(昭和31年6月25日厚生省令第22号)を遵守し、「問診判断基準」に基づき他の所見と合わせて総合的に検診医が判断する。全血採血の場合は下表の中の血圧、脈拍及びヘモグロビン濃度測定を行い、発熱していないことを確認する。成分採血の場合は下表の項目についてチェックをして採血する。

    検査項目 参考
    血圧 最高血圧が90mmHg未満の人からは採血しない。(【厚生労働省令】に拠る。)
    最高血圧が180mmHg以上の人、最低血圧が100mmHg以上の人については、検診医の判断を要する。
    不安や精神的緊張による変動又は運動による影響があるので注意する。
    脈拍 心肺の異常を推測させる脈拍の異常がある人からは採血しない。
    脈拍数が40/分未満の場合は検診医の判断を要する。
    不安や精神的緊張による変動又は運動による影響があるので注意する。
    体温 平熱であること。
    有熱は検診医の判断によるが、熱感があったり、平熱より1度以上高ければ有熱の目安とする。「37.5℃を超えるものは明らかな発熱者とする。」(インフルエンザ予防接種ガイドライン等検討委員会より)
    心電図 (1) 心不全を起こす可能性がある不整脈がないこと。
    (2) 心筋障害及び心筋梗塞の可能性がないこと。
    尿検査 必要に応じて実施し、検診医が正常と判断すること。
    (ALT) (61IU/L 以上の場合は輸血用に使用できない。)
    血算 採血可能な血算値の目安
    【厚生労働省令】「採血基準書」に規定されているものは遵守すること。それ以外の数値(参考値)はあくまで目安であり、他の所見と合わせて総合的に検診医が判断する。採血不可とする場合は、丁寧に説明し、献血者の理解を得ること。
    白血球数 2,500/μL 以上、 13,000/μL 以下(参考値)
    血小板数 10万/μL 以上、60万/μL 以下(参考値)
    ただし、血小板成分採血では以下を遵守すること。
    15万/μL 以上(【厚生労働省令】に拠る。)
    60万/μL 以下(「採血基準書」に拠る。)
    Ht値 60 % 以下(参考値)
    文責:佐藤 博行
    献血者の採血基準にはどのようなものがあるのか?
    A.
    採血の種類 200mL 全血採血 400mL 全血採血 血漿成分採血 血小板成分採血
    1回採血量 200mL 400mL 600mL 以下(循環血液量の12%以内) 400mL 以下
    年齢 16~69 歳 男性:17~69 歳
    女性:18~69 歳
    18~69 歳 男性:18~69 歳
    女性:18~54 歳
    ただし、65~69 歳の者については、60 歳に達した日から65 歳に達した日の前日までの間に採血が行われた者に限る。
    体重 男性45kg 以上
    女性40kg 以上
    男女50kg 以上 男性45kg 以上
    女性40kg 以上
    最高血圧 90mmHg 以上
    血色素量 男性:12.5g/dL以上
    女性:12.0g/dL以上
    男性:13.0g/dL以上
    女性:12.5g/dL以上
    12g/dL 以上(赤血球指数が標準域*にある女性は11.5g/dL 以上)
    *:標準域
    MCV:81~100(fL)
    MCH:26~35(pg)
    MCHC:31~36(%)
    12g/dL 以上
    血小板数 15 万/μL 以上


    さらに、採血間隔、年間総採血量、年間採血回数について基準がある。以上が省令で定められている事柄である。
    文責:佐竹 正博
    検査をしていない新興・再興感染症に対してはどのような対策をとっているのか?
    A.  新興・再興感染症のうち、ウイルス血症、菌血症、あるいは寄生虫血症をおこしうる疾患が対象となり、問診によってその可能性のある献血者を排除している。国内でも感染が起こり得るバベシア症については、その既往があれば献血はできない。輸入感染症に対しては、海外から入国した人は、滞在地域、症状の有無にかかわらず入国日から4週間は献血ができない。これにより海外からの急性感染症の持ち込みはおおかた防ぐことができる。デング熱、チクングニア熱、ウェストナイル熱、種々の出血熱などがこれに該当する。マラリアに関しては、4週間を過ぎてからも輸血感染を起こす恐れがあるので、海外での滞在地域、期間により詳細にその献血延期期間が決められている。シャーガス病については、出身国、母親の出身国、南米への滞在期間などにより、血漿分画製剤のための血漿だけ利用する場合がある。いずれにしても献血者の正しい申告が基本となる。
    文責:佐竹 正博
    ウィンドウ期の献血を防止するために具体的にどのような対策をとっているのか?
    A.  個別検体による核酸増幅検査の導入後は、さらに有効な検査法の開発はしばらく望めず、ウィンドウ期献血を防ぐ方法としては問診だけとなる。質問は、「エイズ感染が不安で、エイズ検査を受けるための献血ですか。」「6カ月以内に次のいずれかに該当することがありましたか。①不特定の異性または新たな異性との性的接触があった。②男性どうしの性的接触があった。③麻薬、覚せい剤を使用した。④エイズ検査(HIV検査)の結果が陽性だった(6カ月以前も含む)。⑤上記①~④に該当する人と性的接触をもった。」の二つである。これらの質問のいずれかに「はい」と答えた人は以後6カ月間献血ができない。血液センターにおいてもこれらの人には6カ月間マークが付けられ、万一他の会場において採血が行われても製品化はされない。すべての献血会場において、献血者について運転免許証などの提示による本人確認が行われている。
    すべての献血者にコールバック用紙が渡される。上記質問項目に該当しながら献血時に正しく申告できなかった人は、コールバック用紙に記載された自分の採血番号を、匿名で血液センターに連絡することができる。この連絡のあった採血血液は製品化されない。
    文責:佐竹 正博
    採血によって献血者に起こる副作用や副損傷の頻度は?
    A.  血管迷走神経反応が0.9%の頻度で起こる。気分不良、吐き気、めまい、失神などの症状を呈する。失神により転倒して頭部顔面などに損傷を受けることがまれにある(0.008%)。皮下出血が0.2%にみられ、特に成分採血後に多い。神経損傷(痛み、しびれ、筋力低下など)が0.01%、極めてまれにCRPS (Complex Regional Pain Syndrome) が報告されている。
    文責:佐竹 正博
  • (2)血液成分の分離・製造・保存

    血液製剤への細菌汚染を防ぐためにどんな方策がとられているのか?
    A. ① 問診において、菌血症を起こしている可能性のある献血者を排除する。発熱者、歯科治療後の人、治癒していない外傷のある人、1か月以内に発熱を伴う下痢を起こした人、など。
    ② 採血時、最初に流出してくる25mLを本採血に含めない初流血除去を行っている。これにより穿刺時に皮膚から混入する細菌の濃度を下げることができる。
    ③ 保存前白血球除去により、白血球と親和性の強い細菌(エルシニア菌、サルモネラ菌など)の大部分を除去できる。
    ④ 製剤を医療機関に出荷する直前に外観検査をする。感度は低いが、細菌が高濃度に増殖した製剤を排除できる場合がある。
    ⑤ 血液製剤の有効期間を短く設定している。MAP-濃厚赤血球は21日、血小板製剤は4日目(採血日を1日目とした場合)の深夜12時まで(実質最長85時間)。いずれも世界で最も短い部類に属する。
    文責:佐竹 正博
    血小板製剤の有効期限は延長できないのか?
    A.  血小板製剤は常温(20~24℃)で保存される。そのため保存中に細菌が増殖する危険性がある。万一細菌が増殖しても危険な濃度まで達しないうちに輸血に供されることを目的として、また血小板機能を良好に維持することを目的として、日本の血小板製剤の有効期限は4日目(採血日を1日目とした場合)の深夜12時まで(実質最長85時間)と短く規定されている。日本ではサンプル培養による全品スクリーニングを導入していないので、何らかの新たな安全策が導入されない限り、現状以上に有効期限を延長することは困難である。全品培養スクリーニングを導入した場合、医療機関への出荷は1日から2日遅れることになるので、有効期限の延長は必須となり、血小板機能の低下は免れない。また欧米の成績では、全品スクリーニング導入後も細菌感染例を完全に防ぐことはできていない。
    文責:佐竹 正博
    なぜ病原因子の低減化(不活化)法がすぐに導入されないのか?
    A.  病原因子低減化法が、直ちに導入すべきものであると即断できない理由を以下に挙げる(2014年初頭時点)。低減化法をほどこすことによって病原因子がすべて死んでしまう訳ではない。不活化され難いものもされ易いものもあり、不活化される上限の濃度がある。未知の病原因子についてはどのような血中濃度で侵入してくるか不明である。病原因子だけが影響を受けるのではなく、血液製剤中の有効成分も大きな影響を受け、製剤の有効性が低下する。現時点では、赤血球製剤に対する有効な低減化法は完成していない。低減化処理をした製剤の安全性については、種々のスタディの結果が発表されているが、まだ決着がついていない。低減化処理を施した製剤の値段は相当高価になることは避けられない。
     以上、不利な項目のみを列挙したが、低減化処理によって輸血感染症に関する安全性が上昇することは確実であり、その導入について血液センター内で検討が進められている。
    文責:佐竹 正博
    保存前白血球除去した血小板製材は、残存白血球はまったく無いのですか?
    A. 保存前白血球除去製剤は、全く白血球が残存していない製剤という意味ではない。 血小板製剤の頻回輸血による同種免疫感作によって生じるHLA抗体は血小板輸血不能症の原因とされている。この同種免疫感作を引き起こすのは血液製剤に混入する白血球数が106個以上の場合とされており、「血小板製剤1バッグ中に残存する白血球数が1×106個以下(95%適合率)」という基準を満たすものを保存前白血球除去製剤として提供している。
    文責:山本 哲
    日赤の製造部門集約で合成血液の供給に時間がかかるようになりますか?
    A. 合成血液は通常の製剤とは異なり供給施設で在庫管理されておらず、受注を受けた後に製造施設内で製造し医療機関に供給される。近隣に製造施設がある場合には受注後2~3時間で供給されるが、遠方の場合にはこれに輸送時間が加算される。緊急時の合成血液の需要に対応するため、当該患者の情報を事前に日赤に伝える事によって、日赤では正式受注前に合成血液を製造し、近隣の供給所へ搬送、待機することにより供給までの時間を短縮する受注前製造を行うこととしている。また、必要に応じて、汎用性の高い小型の遠心機による簡易合成血液の製造についての情報提供を行っている。なお、採血後数日程度の赤血球濃厚液と新鮮凍結血漿による混合血液を医療機関内で製造する事によっても時間の短縮を図る事が出来る。

    参考文献; 勝又雅子ら、日本輸血学会雑誌, 59: 791-798, 2013
    文責:山本 哲
  • (3)品質管理

    GMPとはどういうものか?
    A.  GMPは、Good Manufacturing Practiceの略で、1938年アメリカ食品医薬品局が連邦食品・医薬品・化粧品法に基づいて定めた医薬品等の製造品質管理基準である。国際的にはWHOが1968年に制定を決議し、1969年に各国に勧告した。我国においては、薬事法に基づいて定められた、医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準で、平成5年より、医薬品、医薬部外品の製造業の許可要件として制定された厚生労働省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第179号))である。また、平成17年の薬事法改正に伴い、医薬品等の製造販売承認の製造所における承認要件となった(薬事法第14条)。
     具体的には、患者さんが安心して使える高品質の医薬品を、誰がいつ作業しても製造できるように、医薬品製造所が行うべきことを規定したものである。GMPの目的として、(1)人為的な誤りを最小限にすること、(2)製品の汚染及び品質低下を防止すること、(3)高い品質を保証するシステムを設計すること、が基本(GMP三原則)となっている。これらを達成していくために、文書による指示や報告、記録が必要であり、同時に、定められた手順で作業を正確に行うこと、作業内容を定期的に確認することが、医薬品の高い水準を保つことにつながるとされており、それらを規定しているのがGMPである。
    文責:髙本 滋
    生物学的製剤基準とはどういうものか?
    A.  厚生労働大臣は薬事法第42条(医薬品等の基準)により、保健衛生上特別の注意を要する医薬品につき、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、その製法、性状、品質、貯法等に関し、必要な基準を設けることができ、この規定により「生物学的製剤基準」が定められている。この基準により定められた事項に適合しないものは、薬事法56条により製造、販売等が禁止されている。
     生物学的製剤基準は、平成5年以降全般的な見直しが行われていなかったが、その後の科学技術の進展、新試験法の開発、ヒト又は動物の生物由来原料を用いた製品の安全性確保に対する関心の高まり等を踏まえた改善が求められた。また、薬事法及び採血及び供血あっせん業取締法の一部を改正する法律(平成14年法律第96号)の施行に伴い制定された生物由来原料基準(平成15年厚生労働省告示第210号)及び日本薬局方並びにWHO基準等の国際的な基準との整合性を確保する観点からの見直しも必要と考えられ、平成16年3月、全面改正された。「生物学的製剤基準(平成16年3月30日 厚生労働省告示 第155号)」
    文責:髙本 滋
    RCC-LR輸血中、凝集塊による輸血ラインの詰まりが起こるか?
    A.  従来、輸血セット詰まりの原因のほとんどは、マクロアグリゲート*と呼ばれる大凝集塊によるものであった。しかし、保存前白血球除去導入(平成19年1月)以降、調製されたRCC-LRは白血球、血小板の大部分が除去されていることから、長期間保存してもマクロアグリゲートが形成されないことが報告1)されており、実際、凝集塊による輸血ラインの詰まりは減少している。
     *マクロアグリゲート:バッグ内の細胞成分(顆粒球、血小板、赤血球等)が保存に伴って崩壊し、少量残存する血漿の凝固系の活性化により形成されたフィブリン様繊維物質が付着して形成される凝集塊。
    ☆参照資料:1)田村暁、他:赤血球濃厚液-LR「日赤」の保存中に形成される凝集塊について、日本輸血細胞治療学会誌 2010;56:612-617.
    文責:髙本 滋
    交差適合試験用セグメント・チューブの血液に凝固が見られるが、血液本体は使用可能か?
    A.  交差適合試験が実施可能で、本体血液に外観上異常がなければ使用可能である。交差適合試験実施不可能な場合には他のセグメント・チューブを使用する。 本体血液と比較すると、セグメント・チューブ内血液は抗凝固液との混和状況により、 凝固しやすい状態にある。セグメント・チューブ内凝固の可能性はバッグから遠い セグメント・チューブほど高いが、セグメント・チューブ内血液に凝固が見られても 本体血液が凝固している可能性はほとんどない。
    文責:髙本 滋
    赤血球製剤中の残存血漿タンパクについて
    A.  医薬品製造販売承認申請時の試験項目には血漿タンパクに関する試験は含まれていないが、白血球除去等の調製を経て調製されたRCC-LR-2の血漿タンパク除去率は平均94%と言われている。
     また、日本赤十字社の内部データとして、RCC-LR-2の上清総タンパク量は1.2±0.2(g/dL)、WRC-LR-2は0.11±0.03(g/dL)とのデータがある。

    ☆参考資料:第7回東京都輸血療法研究会報告書2008

    【参考】
    400mL献血由来の血液製剤の性状比較
    容量
    (mL)
    赤血球数
    (×104/μL)
    ヘマトクリット
    (%)
    ヘモグロビン量
    (g/dL)
    WB-LR-2 407.9± 3.6 397± 38 35.8±3.4 12.5±1.4
    RCC-LR-2 276.9±14.3 602± 32 54.2±1.9 18.9±0.8
    WRC-LR-2 267.8±13.0 620± 24 55.0±1.8 18.2±0.9
    BET-LR-2 303.6±13.3 517± 31 47.6±1.1 15.9±0.6
    FTRC-LR-2 242.5±11.4 578± 20 54.1±1.9 17.2±0.5

    ☆参考資料:日本赤十字社 輸血用血液製剤試験成績集
    文責:髙本 滋
    融解後のFFPに白い浮遊物があるが使用可能か?
    A. FFP融解時の浮遊物として、考えられるものは3つあり、それぞれ使用の可否が異なる。

    37℃による加温 浮遊物 原 因 使用の可否 理由
    溶解する クリオプレシピテート 低温での融解 析出したクリオプレシピテートには各種凝固因子が多く含まれる
    溶解しない タンパク質
    熱変性物質
    高温での融解 不可 フィブリン・フィブリノゲン等のタンパクの熱変性
    フィブリン 採血時の血液と抗凝固剤との混和不足等 不可 凝固因子が凝固物として析出しているため輸血効果が得られない

    ☆参考資料
    輸血情報 0902-117「新鮮凍結血漿(FFP)の融解方法について」
    http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_yuketuj0902-117_090805.pdf
    文責:髙本 滋
    FFPを融解した後、再凍結した場合は使用できるか?
    A. 一旦融解することで、熱に不安定な第Ⅴ因子、第Ⅷ因子等が低下する。そのため再凍結後はこれらの効果を期待することはできない。

    ☆参考資料
    輸血情報 0902-117「新鮮凍結血漿(FFP)の融解方法について」 (http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_yuketuj0902-117_090805.pdf
    文責:髙本 滋
    FFPの添付文書に融解後3時間以内に使用することと記載されているが、どうしてか? 
    また、融解後フィブリノゲン濃度は変化するか?
    A. 生物学的製剤基準では、融解後3時間以内に使用するよう規定されている1)。一度融解した血漿製剤は、第V因子、第VIII因子等の不安定因子の活性が低下するので、可能な限り早めに使用する。採血直後を100とすると、融解後3時間で第V因子は85%前後、第VIII因子で55%前後に低下する2)
    また、フィブリノゲンはトロンビンによりフィブリンとなるが、フィブリノゲン自体は基質であって酵素ではないので、1年間の凍結後に融解しても安定と言われている。血漿製剤を37℃で融解後連続約3時間の連続加温にもかかわらず、濃度、分子の安定性ともに変化はなかったとの報告がある3)

    参考資料
    1) 生物学的製剤基準 (平成16年3月30日 厚生労働省告示 第155号、最終改正:平成25年6月18日 厚生労働省告示 第205号)
    2) Blood Information: 日本赤十字社 ’88-1
    3) 岩城あづさ, 他;解凍時の温度のFFPに及ぼす影響について. 日赤薬剤師会誌 1986; 54: 66-73.
    文責:髙本 滋
    放射線照射後の上清カリウム値について
    A. 赤血球製剤においては照射後の上清カリウム値が上昇することから、高カリウム血症をきたす危険性が高い患者(未熟児、新生児、腎不全患者、急速大量輸血等)には注意が必要とされている。なお、前述以外の患者では、その製品の使用期限まで(他の患者への転用も含め)輸血に使用してよいとされる。

    Ir-RCC-LR2の上清総カリウム量の変動              n=8
    1日目 7日目 14日目 21日目
    上清総カリウム量(mEq) 0.2±0.1 4.6±0.7 6.2±0.8 7.1±0.8
    平均±標準偏差
    * 1日目(採血当日)に15Gy以上50Gy以下の放射線を照射

    RCC-LR2の上清総カリウム量の変動              n=8
    1日目 7日目 14日目 21日目
    上清総カリウム量(mEq) 0.2±0.1 2.5±0.3 3.9±0.4 4.9±0.4
    平均±標準偏差

    血小板製剤では赤血球製剤で見られるような著しい上清カリウム濃度の上昇はない。

    ☆参照資料:「血液製剤の使用指針 平成24年3月一部改正」
    文責:髙本 滋
    放射線を二重照射した場合の血液の品質について
    A. 照射された正確な線量が不明であるため、品質保証できない。
     細胞に放射線照射する場合、同じ線量を二回あるいはそれ以上に分割して与えると、一度に与えた場合よりも生存率は高くなると言われている。このことから二重照射では二回の合計照射量より細胞の受けるダメージは少ないことになる。15Gyで二回照射した場合を例にとると、30Gy一度に照射された場合より細胞の受けるダメージは少なく、ガイドラインの範囲を越えない照射がなされたと考えられる。しかし、「15Gyでの照射」では血液バッグのどの部分にも最低15Gy照射されなければならないことから、機種にもよるが最高では25Gy以上照射される部分が生じる。二回の照射で各々最高線量が照射された部分では合計50Gy以上となり、ガイドラインの上限を越え、溶血その他の影響が考えられるため、品質保証できない。
     ガイドラインでは15~50Gyを照射線量の範囲と定め、50Gyを赤血球・血小板・顆粒球の機能や寿命を損なわない上限の線量としている。

    ☆参考資料 輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドラインⅣ
    文責:髙本 滋
    アルブミンの安全性確保対策
    A.  国内で製造されるアルブミンの原料血漿は、すべて日本赤十字社の血液センターにおいて献血された血液から製造されている。原料血漿の安全性確保対策は、献血時の問診による献血者選択、初流血除去、献血後情報、感染症の血清学的検査、ウイルス核酸検査(NAT)および貯留保管等、「Q68」に記述されている輸血用血液製剤の安全性確保対策と同じである。アルブミンの製造工程においては、さらに以下のような対策が採られている。
    1. Cohn の低温エタノール分画法により、アルブミンを分離・精製している。
    2.60℃、10時間の液状加熱処理工程を導入している。
    3.その他、各メーカーの製品によっては実施されている対策として、原料血漿に対するHEVのNAT、ナノフィルトレーション(N19)、最終製品に対するHBV,HCV,HIV,パルボウイルスB19等のNAT陰性確認試験がある。
     日本赤十字社は、国内の献血血液を原料としたアルブミン製剤の製造と供給を1973年に開始した。日本赤十字社の血漿分画事業は2012年10月から日本血液製剤機構に移管されたが、これまでに国内で製造されたアルブミン製剤によるウイルス感染は、HBV、HCV、HIVのみならず、エンベロープのないヒトパルボウイルスB19やHAVについても報告されていない。
    文責:髙本 滋
    輸血用血液製剤の製造番号の意味
    A.  製造番号の構成は以下の例のようになっている。最初の2桁が血液センター番号、次の2桁が採血場所(採血施設)、5桁目が採血種別、6桁目が血液型、7から10桁目までが通し番号となっている。この製造番号の構成には日付等の項目が含まれていないので、一定期間ごとに同一の番号が繰り返し使用されることになる。医療機関でコンピュータを用いた輸血用血液製剤の管理を行っている場合、各製品の区別がロット番号のみで行われていると、血液センターが以前に納品しているものと同じ番号の製品が偶然に納品されて、医療機関のコンピュータシステムが当該製品を受け付けない事例が発生する可能性がある。

    01 - 23 4 5 - 6789

    ① :血液センター番号
    ② :採取場所(採血施設:献血バスや献血ルーム等)
    ③ :採血種別(200mL: 1、400mL: 2、成分: 3)
    ④ :血液型(A型0~3、O型4~6、B型7~8、AB型9)
    ⑤ :通し番号(0001~9999)
    文責:髙本 滋
  • (4)供給体制

    血液製剤の供給体制は?
    A.  血液製剤には、輸血用血液製剤と血漿分画製剤の2種類がある。輸血用血液製剤(以下、血液)の供給は日本赤十字社の血液センターが行っている。血漿分画製剤については複数の製薬メーカーが供給を行っているが、血液センターも委託を受け一部の血漿分画製剤を供給している。
     2012年(平成24年)4月1日より、日本赤十字社は新たに7つのブロック血液センターを設置し、全国47都道府県の血液センターを各ブロック単位にて管理運営する血液事業の「広域事業運営体制」を開始した。 各ブロック血液センターでは、各血液センターが医療機関からの血液の要請に迅速に対応できるようブロック内のすべての在庫を血液型別に管理・調整している。さらに、全国7ブロック間にて在庫調整を行うことで、安定的で過不足なく血液を供給する体制を敷いている。
     医療機関へは、原則として担当地域の血液センターが24時間体制にて受注し血液の供給を行っているが、地域事情等により血液センターが契約・委託した業者等が血液を届ける地域もある。また、離島や遠隔地等など供給に時間を要する地域では、血液センターが予め特定の医療機関に協力を依頼し、備蓄されている血液を近隣医療機関に融通する運用も行っている。
    文責:池田 和真
    血液製剤の中で予約が必要なものはどれですか?
    A. 血液製剤には、血液センターで常時在庫を持っている製剤と、受注に基づいて採血や製造を行う製剤とがある。受注に基づいて採血や製造を行う製剤※については、確実に医療機関へ製剤を届けるために、原則として予約による発注を行う必要がある。特に、HLA適合血小板等、適合する献血者を探して献血をお願いする製剤については、確保までに長い時間を要することから、医療機関に対し余裕を持った発注と必要に応じて輸血計画の情報提供を依頼している。また、予約がない場合は希望どおりの供給ができない製剤もあり、常時在庫のある製剤についても、血液センターから定時配送便による供給を行うため、可能な限り予約を行うことが望ましい。なお、放射線を照射していない赤血球濃厚液等、地域の需要により常備していない製剤もあるので、事前に担当の血液センターに確認する必要がある。

    ※ 受注に基づいて採血または製造を行う製剤
    ・(照射)人全血液
    ・(照射)洗浄赤血球液
    ・(照射)合成血液
    ・(照射)解凍赤血球液
    ・(照射)濃厚血小板HLA
    ・まれな血液型等指定のある製剤
    文責:池田 和真
    PC-HLAの供給体制は?
    A. PC-HLAの供給には、血液センターに患者の検体を提出しHLA抗体スクリーニングとHLAタイピングを実施する必要がある。HLA抗体スクリーニングが陽性の場合のみPC-HLAの適応となるが、患者のHLA抗体の特異性を解析し、成分献血登録者の中から適合ドナーを呼び出して採血することとなるので、供給されるまでに日数を要する。特に適合ドナーが少ない場合は更に日数を要する可能性がある。血小板不応が疑われる場合は、輸血予定までに余裕を持った発注が望ましい。

    文責:池田 和真
    輸血副作用を回避するため洗浄血小板が必要な場合、血液センターから洗浄血小板を供給できるか?
    A.  日本赤十字社では、洗浄血小板の製造販売承認を取得していないため、血液センターでは洗浄血小板を製造・販売することはできない。そのため、洗浄血小板を調製するために必要な機器がある医療機関においては、自施設で洗浄血小板を調製する。なお、血液センターでは、医療機関での実施にあたり、洗浄血小板の調製方法等の情報提供や技術的支援を行っている。
     また、洗浄血小板を調製するための必要機材が整備されていない医療機関に対しては、技術協力として洗浄血小板を調製しているが、洗浄血小板の調製は医療の一環として行われるため、他の医療機関で調製した洗浄血小板を別の医療機関で使用した場合、薬事法に抵触し行政指導の対象となる。従って、血液センターでは国の指導に基づき血液センターの医師が協力医療機関の医師を併任することの契約・覚書き等の手続きを行うなど、全国で統一した対応を取っている。
     詳細については、最寄りの血液センターに確認する必要がある。
     なお、日本赤十字社では、洗浄血小板の製造販売承認取得に向けて準備を進めている。
    文責:池田 和真
    輸血用血液製剤の供給に関してどのような技術協力ができますか?
    A. 1.洗浄血小板の調製に係る協力
     血小板製剤中の血漿成分により有害反応が発生し、その後の治療へ影響を及ぼす場合、有害反応の予防・軽減策の一つとして血小板製剤中の血漿成分を洗浄操作により減少させた製剤(以下「洗浄血小板」という)の輸血が行われる。
     この洗浄操作は医療の一環として行われるものであり、輸血をする医療機関の責任のもとに実施される。平成24年4月から診療報酬として保険点数算定が可能となり、医療機関で実施しやすい環境が整いつつあるが、調製に必要な機器等の整備がなされていない等のため、血液センターの協力を必要とする医療機関が少なからず存在する。
     洗浄血小板を調製するための必要機材が整備されていない医療機関に対して、血液センターは国の指導に基づき、血液センターの医師が協力医療機関の医師を併任することの契約・覚書き等の手続きを行い、技術協力として洗浄血小板を調製している。詳細については、最寄りの血液センターに確認する必要がある。また、医療機関での洗浄血小板調製の導入に向けた支援として、血液センターでは調製方法等の情報提供を行っている。

    2.自己血輸血への協力
     血液センターは医療機関との間の契約等に基づき、医療機関により採血された自己血の受け入れから、分離・調製した自己血を保管し、医療機関へ引渡すまでの協力を行っている。なお、全血による保存は分離・調製・保管等に特別な技術を要しないため、原則として血液センターでは受け入れていない。ただし、医療機関での自己血輸血導入に向けた支援として、血液センターでは医療機関の協力依頼に応じて職員の派遣等を行っている。
     なお、自己血からのクリオプレシピテートの調製については、日本赤十字社ではすでにクリオプレシピテートを製造していないため、協力を行っていない。
    文責:池田 和真
    納品された赤血球製剤の抗原陰性情報の提供は可能ですか?
    A.  医療機関へ納品されている赤血球製剤の抗原陰性情報の提供については行っていないが、医療機関からの要望が多くあるため、日本赤十字社において情報の提供方法を検討している。
    文責:池田 和真
    クロスエイトMCの安全性確保対策は?
    A.  献血由来製剤であるクロスエイトMCは、原料血漿の検査において輸血用血液製剤と同等の安全対策を取っています。加えて、製造工程においてもウイルス不活化処理、ウイルス除去処理を行い、さらに最終製品について核酸増幅検査等を実施しています。

    ① 原材料となる血液の受入れ
    問診等の検診により健康状態を確認した国内の献血者から採血している。
    ② 原材料となる血液の検査
    梅毒トレポネーマ、B 型肝炎ウイルス(HBV)、C 型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1 及びHIV-2)、ヒトT リンパ球向性ウイルス1 型(HTLV-1)及びヒトパルボウイルスB19 についての血清学的検査及び肝機能(ALT(GPT))検査に適合したものである。さらに、HBV-DNA、HCV-RNA 及びHIV-RNA についてのプールした試験血漿を用いた核酸増幅検査に適合している。
    ③ 貯留保管
    原料血漿を6 ヵ月間以上貯留保管して安全性が疑われる血液を極力排除している。
    ④ 製造工程でのウイルス不活化
    リン酸トリ-n-ブチル/オクトキシノール9 処理によりウイルスを不活化している。
    ⑤ 製造工程でのウイルス除去
    イムノアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー及びウイルス除去膜処理でウイルスを除去している。
    ⑥ 添加物としてのヒト血清アルブミンの安全性確保
    添加物として用いた人血清アルブミンの製造においては上記①~③の原料血漿を使用し、コーンの低温エタノール分画法によりウイルスを除去・不活化したうえ、60℃、10 時間の液状加熱によりウイルスを不活化している。
    ⑦ 最終製品の検査
    最終製品については、①HBV-DNA ②HCV-RNA ③HIV-RNA ④HAV-RNA ⑤ヒトパルボウイルスB19-DNA のNAT を行い陰性であることを確認している。
    ⑧ 製品の純度
    本剤は、抗FⅧマウスモノクローナル抗体を用いたイムノアフィニティークロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーにより精製しているため、種々の副作用の原因となる可能性がある夾雑たん白質が極めて少ない高純度な製剤である。

    但し、ヒトの血液を原料としていることに由来する感染症伝播等のリスクを完全には排除できない。
    文責:池田 和真

3.輸血療法
  • (1)血液製剤の特性と適応

    有効期限を過ぎた輸血用血液は使用可能か
    A.
    <WB><赤血球濃厚液-RCC>
    輸血された赤血球の70%以上が、24時間後に血中に残っている期間として定められた。 当初赤血球濃厚液-RCCは採血後42日間の有効期間であったが、エルシニア属菌による 重篤な輸血合併症の多くが採血後21日以降の血液を輸血して発生しているとの報告から、 平成7年4月から採血後21日間に変更された。
    ☆参照資料:輸血情報「9608-28」
    <FFP>
    保存とともに凝固因子活性(特に第Ⅷ因子)が低下することを考慮し、期待される止血効果が発現できると考えられる期間として定められた。 なお、有効期間は採血後1年間である。 また、用法として融解後3時間以内の使用が生物学的製剤基準に定められているが、これは融解後の第Ⅷ因子活性が急速に低下することに 起因している。
    <PC>
    輸血後の生体内寿命及び輸血効果(血小板数の増加又は止血効果)等が良好に保持される期間として、 室温保存での無菌性への配慮を基に定められた。 なお、有効期間は採血後72時間以内である。
    文責:吉場 史朗
    不適切な温度で保管された血液製剤は使用可能か?
    A. 血液センターとしては品質保証できない。
    各製剤が温度によって受ける影響は下記の通りである。

    • <赤血球製剤>
    WBにおいて赤血球の品質の指標とされる項目について下記のデータを示した文献がある。
    上清K値 37℃ 24時間保存 = 5℃ 1週間保存
    ATP値 37℃ 8時間保存 = 5℃ 5日間保存
    37℃ 24時間保存 = 5℃ 2週間保存
    2.3-DPG値 21℃ 5時間保存 = 5℃ 4日間保存
    21℃ 24時間保存 = 5℃ 2週間保存

    • <FFP>
    適切な温度で保存しても1年後には第Ⅷ因子活性は約70%まで低下することから、 家庭用冷凍庫等で-20℃より高い温度で保存された場合にはより早い失活が予想される。
    • <PC>
    冷蔵保存: 室温保存と比較してpHの変化は少なく、保存状態は比較的良好だが 生体内での凝集能・粘着能が低下する他、輸血後の回収率、生体内寿命も良くないため、長期効果は望めない。
    静  置: 振とう保存することで血漿のpH緩衝作用を助長し、血小板周囲のpH低下が抑えられ、良好に血小板機能が保たれる。 静置保存でも6時間程度までなら機能は低下しないが、その間30分置きに手で少し振とうすればpH低下の防止に効果的である。
    ☆参照資料:輸血情報「No.4」
    • <クロスエイトMC>
    凍  結: クロスエイトMCは含湿度3%以下の製剤であり、タンパクの凍結乾燥品を凍結保存することは一般的に行われていることから 問題ないと考えられるが、凍結、融解を繰り返した場合はタンパクへの影響が大きいので、変性の可能性を否定できない。 また、溶解液の方は凍結によりバイアルが割れることがあるので要注意(割れていた場合は「日局」注射用水10mLにより溶解可能)。 貯法「凍結を避けて10℃以下で保存すること」により、海外持ち出しの際には保冷剤と共にクーラーバッグに入れて持ち運ばなければならない。 この際保冷剤が製剤の箱に直接接触していると溶解液が凍結して破損してしまうことがあるので要注意。
    高  温: 40℃、湿度75%で6ヶ月間品質の変化を認めなかった。

    凍結乾燥状態のクロスエイトMCについて
    保存条件 保存期間 試験結果
    11±1℃ 30ヶ月 変化を認めず
    25±1℃、湿度75±5% 6ヶ月 変化を認めず
    40±1℃、湿度75±5% 6ヶ月 変化を認めず
    11±1℃、照度1000ルクス 6ヶ月 変化を認めず
    文責:吉場 史朗
    血液製剤の色調が他のLot.と異なるが使用可能か?
    A. 人由来の血液製剤は、原料として用いられた献血者血液による個体差が生ずる。

    <赤血球濃厚液-RCC>
    赤血球製剤は鮮紅色から黒っぽいものまで色調は一定しない。 血液バッグ本体と交差適合試験用セグメント・チューブの色調の比較をし、明らかな差がある場合には使用しない。 長期保存中(採血後21日以降)のエルシニア属菌による黒変が報告されたことから色調に関する問い合わせがあるが、 個体差による場合が多く、いずれも使用可能であった。なお、疑わしい場合には血液センターへ連絡する。
    ☆参照資料:輸血情報「9608-28」、 輸血情報「0203-69」
    <FFP>
    白く濁っていることや黄色がやや強いことがあるが、献血者の食事等の影響によるもので品質的には問題ない。
    ☆参照資料:輸血情報「9312-6」
    <PC>
    蛍光灯下での保存中、数時間で黒緑色に変化した例がある(科学的な裏付けはないが、再現実験により確認)。 当該製剤の無菌試験は陰性であり、血漿中の成分が光により何らかの化学変化を起こし黒っぽくなったと推測されること、 さらに原因物質が特定できていない為使用可能とは言えない。
    <アルブミン>
    淡緑色を呈していることがあるが、原料血漿に含まれるビリルビンが酸化されて緑色のビリベルジンへ 変化するとともに生ずる現象であり、品質的には問題ない。 その後ビリベルジンは徐々に分解され黄褐色から赤褐色へ変化する。 この色調はロットや製造後の経過期間によっても多少の差異が生じる。
    ☆参照資料:輸血情報「0102-63」
    文責:吉場 史朗
    赤血球M・A・Pから赤血球濃厚液LRに変わった時期とその理由は何ですか
    A. 赤血球濃厚液LRの供給が開始されたのは平成19年1月16日採血分より供給されています。
    輸血用血液製剤に含まれる白血球は、発熱反応、輸血関連急性肺障害などの副作用、サイトメガロウイルス感染の原因となるほか、同種抗原として受血者に抗白血球抗体を産生させ、血小板不応状態を誘導することが知られており、保存前の輸血用血液から白血球を除去しています。
    参考資料:輸血情報 0404-83、0501-86
    文責:吉場 史朗
    赤血球濃厚液LRの容量はどのぐらいですか?(最少容量~最大容量の範囲)
    A. RCC-LR-2は276.9±14.3mlとなります。M・A・Pの容量よりは白血球除去 フィルターを使用している分、容量は若干減っています。
    また参考ですが、2014年の6月以降、赤血球濃厚液の名称変更がある予定です。一般名:人赤血球液、販売名:赤血球液-LR(RCC-LR-2→RBC-LR-2)になります。
    参考資料:輸血用血液製剤 試験成績集
    文責:吉場 史朗
    院内での赤血球輸血の転用は可能ですか?
    A. 平成5年に作成された血液製剤保管管理マニュアルでは、一度輸血室(輸血製剤を保管・管理している部署)から払い出された製剤の転用は品質の保証ができないため転用は禁じられていますが、適切な保管状態がなされており、速やかに(払い出し日の翌日の昼まで)返品された場合には転用可能とされています。また、平成5年に作成された血液製剤保管管理マニュアルと異なる方法を講じる場合には、病院内の輸血療法委員会または病院管理部門において記録を作成しなければならないとされています。
    参考資料:血液製剤保管管理マニュアル(平成5年9月16日)
    文責:吉場 史朗
  • (2)疾患病態別の輸血療法

    MSBOSとSBOEとはどのような血液準備方法なのか?
    A. MSBOS(Maximum Surgical Blood Order Schedule;最大手術準備量):MSBOSとは、術中輸血の可能性の高い場合に用いられる術前血液準備方法である。各医療機関ごとに、合併症のない定型的な待機的手術症例を対象にして、過去の手術例から術式別の平均的な輸血量(T)と準備血液量(C)を調査する。その輸血量と準備血液量、両者の比(C/T)が1.5倍以下になるような量の血液を交差適合試験を行って事前に準備する方法である。

    SBOE(Surgical Blood Order Equation;手術血液準備量計算法):MSBOSが術前の患者の貧血のレベル等、個別の状況が考慮されていないことから、血液型不規則抗体スクリーニング(T&S)の実施を前提としたより無駄の少ない血液準備法として、MSBOSに代わる方法として提唱されている。この方法は、患者の術前ヘモグロビン(Hb)値、患者の許容できる輸血開始Hb値(トリガー;Hb7~8g/dL)、及び術式別の平均的な出血量の3つの数値から、患者固有の血液準備量を求めるものである。はじめに患者の術前Hb値から許容輸血開始Hb値を減じ、患者の全身状態が許容し得る血液喪失量(出血予備量)を求める。次に、出血予備量と術式別の平均的な出血量との差を求めそれを血液準備量として単位数に換算する(200mLを1単位とする)。

    出血予備量(単位)=(術前Hb値-許容輸血開始Hb値)/(40/体重)
    手術血液準備量(単位)=平均出血量(g)/200-出血予備量(単位)
    (40/体重):成人が1単位の輸血により増加するHb量

    • 手術血液準備量(単位)がマイナスあるいは0.5以下であれば、血液の準備を必要とせず、T&Sの対象とし、逆に出血量が出血予備量より上回る場合(0.5より大きければ)、単位数を四捨五入して整数単位数の血液を術前に準備する方式である。
    文責:面川 進
    第Ⅴ因子欠乏症への適応製剤はあるのか?
    A. 特異的な血漿分画製剤は存在しない。新鮮凍結血漿を投与する。止血効果を発揮するためには、正常の25%程度の活性が必要である。手術による出血への対応としては、新鮮凍結血漿20mL/kgを負荷量として投与し、12時間ごとに5~10mL/kgを反復投与することが推奨されている。
    文責:稲田 英一
    直接クームス陽性患者への輸血はどうすればよいか?
    A. 患者が直接クームス陽性の場合の輸血は極力避けるべきとされている。 しかし、やむを得ず輸血を行う場合には監視をしながら注意深く行い、 異常を認めた場合には直ちに中止する。輸血する製剤としては、洗浄赤血球が選択される場合もあるが、現在の赤血球製剤はほとんど血漿成分が除去されていることから赤血球濃厚液でも可能と考えられる。
    文責:松本 雅則
    TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)に対する血小板輸血は禁忌ですか?
    A. TTP患者では、全身の微小血管に血小板血栓が形成され、消費性に血小板が減少していることから、そこに血小板を輸血することは「火に油を注ぐ」ことになり禁忌と考えられる。ただし、致死的な出血を認める場合に血小板輸血をためらう必要は無い。一般的にTTPが進行してDIC傾向とならない限り、出血傾向を認めることは稀と考えられる。
    文責:松本 雅則
    緊急輸血のためRh 陰性患者にRh 陽性の血小板濃厚液を輸血したが、
    抗D免疫グロブリンを使用する必要はあるか?
    A.  厚生労働省「血液製剤の使用指針」(改定版)では「患者がRh 陰性の場合には,Rh 陰性の血小板濃厚液を使用することが望ましく,特に妊娠可能な女性では推奨される。しかし,緊急の場合には,Rh 陽性の血小板濃厚液を使用してもよい。この場合には,高力価抗Rh 人免疫グロブリン(RHIG)を投与することにより,抗D 抗体の産生を予防できる場合がある。」と記載されている。
     しかしながら、以下の点から抗D免疫グロブリン(高力価抗Rh 人免疫グロブリン; RHIG)投与の妥当性は現状においては極めて少ないと判断される。
    ① 成分採血血小板製剤によるD抗体産生のリスクが少ない。
    ② 「RhD不適合輸血によるD抗体産生防止」のためのRHIGの保険適応がない。
    ③ 対象となる患者が血小板減少状態にあるにもかかわらず筋注製剤のみしか国内では流通していない。

    <参考資料>
    RhD不適合血小板輸血によるD抗体産生のリスク
     RhD陽性赤血球0.04mlの輸血によりD抗体産生の可能性があるとされているが、血小板製剤には少量の赤血球が含まれる。日本ではすでに成分採血由来血小板製剤のみが供給されているが、成分採血血小板製剤に含まれる赤血球は1~10μl (0.001~0.01ml)以下であり、成分採血RhD不適合血小板輸血によるD抗体産生のリスクは少ないと想定されていた。最近、O’BrienらはRhD不適合成分採血血小板輸血を受けた565人中にD抗体の産生を認めなかったことを報告した。しかし、北澤らは、成分採血血小板によるNon-D Rh抗体に産生例の報告を行っている。このため、成分採血RhD不適合血小板輸血によるD抗体産生リスクの検討は今後も必要と思われる。

    抗D免疫グロブリンの投与
     しかしながら、国内では妊娠に関連した筋注製剤の抗D免疫グロブリン(高力価抗Rh 人免疫グロブリン; RHIG)の投与については医療保険適応があるが、RhD不適合輸血によるD抗体産生防止のためのRHIGの保険適応はない。また、国内で販売されている筋注製剤のみであり、静注可能な製剤は認可されていない。血小板減少状態では筋肉内注射は血腫が生じるため禁忌である。また、筋注製剤の文書には、「筋肉内注射にのみ使用すること.決して静脈内に注射してはならない.」と記載されている。以上のように、RhD不適合血小板輸血によるD抗体産生防止のために必要なRHIGは、国内では入手できない。
    (「安全な輸血療法ガイドP40-42, 2012」より一部改変し転載)
    文責:藤井 康彦
    血液型不明患者の緊急輸血時に、RhD(-)ではなくRhD(+)のO型RBCを使用していいのでしょうか?
    A. 厚生労働省「輸血療法の実施に関する指針」(改定版)では「血液型が確定できない場合のO 型赤血球の使用:出血性ショックのため,患者のABO 血液型を判定する時間的余裕がない場合・・・例外的に交差適合試験未実施のO型赤血球濃厚液を使用する・・・」と記載されており、O型RBCのRhD血液型については言及されていない。日本人のRhD陰性頻度は0.5%であり、緊急輸血のために、各病院でRhD陰性血を備蓄することは不可能である。このため血液型不明患者の緊急輸血時に、RhD(-)ではなくRhD(+)のO型RBCを使用することは、やむを得ない救命措置と判断される。一方で、血液型不明患者への緊急輸血により0.5%の確率でRhD不適合輸血が発生するリスクがある。このため、妊娠可能な女性等では緊急輸血の妥当性について慎重に判断することが求められる。

    参考文献:安全な輸血療法ガイドP40-42, 2012
    文責:藤井 康彦
    血液型不明患者の緊急輸血のためO型RhD(+)RBCの輸血を行った。
    輸血後に患者がRhD(-)であることが判明したが、抗D免疫グロブリンを使用する必要はあるか?
    A. 厚生労働省「輸血療法の実施に関する指針」(改定版)では「Rho(D)抗原が陰性の場合Rho(D)抗原が陰性と判明したときは,Rho(D)陰性の血液の入手に努める。Rho(D)陰性を優先してABO 血液型は異型であるが適合の血液(異型適合血)を使用してもよい。特に患者が女児又は妊娠可能な女性でRho(D)陽性の血液を輸血した場合は,できるだけ早くRho(D)陰性の血液に切り替える。なお,48 時間以内に不規則抗体検査を実施し抗D 抗体が検出されない場合は,抗D 免疫グロブリンの投与を考慮する。」と記載されている。しかしながら、以下の点から抗D免疫グロブリン(RHIG)投与の妥当性は現状においては極めて少ないと判断される。
    ① 「RhD不適合輸血によるD抗体産生防止」のためのRHIGの保険適応がない。
    ② 国内で販売されている筋注製剤では、1バイアルで陽性赤血球約10~12.5mL程度が破壊されるのみである。400ml採血由来RBCが輸注された場合には大量投与が必要となり、筋注製剤での対応は困難であるが、静注製剤は国内では認可されていない。
    ③ RhD陽性赤血球製剤が大量に輸血された場合にRHIGを投与すると溶血性副作用が発生するリスクがあり死亡例の報告もある。体内に残存するRhD陽性赤血球量が多い場合(20%以上)には、赤血球交換輸血によるRhD陽性赤血球量の排除とRHIG静注製剤を組み合わせた感作防止方法が推奨されている。
    ④ 米国においては緊急輸血時の「RhD不適合輸血によるD抗体産生防止」のためのRHIGの投与は前項のような理由で一般的に実施されていない。

    (「安全な輸血療法ガイドP40-42,2012」より一部改変し転載)
    文責:藤井 康彦
  • (3)輸血の実際

    輸血のラインとして中心静脈カテーテルは使用可能か?
    A.  ほかにどうしても静脈路が確保できない場合には、中心静脈カテーテルから血液製剤を投与していけないということはない。ただし、側管からカテーテルの先端までフィルターがないことを確認する必要がある。中心静脈カテーテルはカテーテル長が長いため流量の多い輸血には不向きである。投与した血液製剤がルートの内壁に付着するため、ルートが閉塞しやすくなったり、カテーテル感染症の危険性を増強させたりする可能性を考慮に入れて使用する。
     また、血液製剤は基本的には生食以外のほかの薬剤との混注を行ってはならない。薬剤と輸血の切り替えの際には、ラインを止め、ラインに残っている液を生食でフラッシュしてから次の輸注を行う。さらに、中心静脈カテーテルを介する急速大量輸血時には、冷たい血液が心臓に直接潅流されることから、心機能に影響を与えることがあるので、加温を考慮する必要がある。

    参考文献
    輸血をめぐるノウハウ 臨床研修プラクティス Vol6、No.1、p54、2009 25周年記念 福島県輸血懇話会 素朴な疑問Q&A集、p73、2013
    文責:菅野 隆浩
    輸血にも使用できる輸液ポンプとは?
    A.  輸液ポンプの中には、輸血に使用できる機種もある。液を送り出すフィンガー部でチューブを完全に押しつぶすことがないため、血球に与えるダメージを抑えることができるタイプである。輸液ポンプを用いて輸血する場合は、輸血に用いることのできる機種を選び、さらにそのポンプに適合する輸血セットを用いる必要がある。
     輸液チューブをしごいて注入するタイプのポンプは、輸血に使用してはならない。

    参考文献
    写真でわかる輸血の看護技術、インターメディカ、p33、2008
    文責:菅野 隆浩
    輸血に使用した製剤バッグの一時保管を、セグメントチューブに代えては駄目か?
    A.  輸血による細菌感染疑い症例の解析、輸血用血液製剤の安全性の検証には、当該バッグによる細菌培養試験が重要である。そのため原因究明のためにはセグメントチューブだけでなく、輸血に使用した製剤バッグが確保されていることが望ましい。特に、実際に輸血された血液バッグ内からどのような菌が検出されるかは重要な手がかりとなるので「輸血療法の実施に関する指針」(改訂版)にも示されているように、当該バッグの適切な保管をお願いしたい。

    参考文献
    「輸血療法の実施に関する指針」(改訂版)及び「血液製剤の使用指針」(改訂版)
    p45-47、2012
    25周年記念 福島県輸血懇話会 素朴な疑問Q&A集、p73、2013
    文責:菅野 隆浩
    投与量の計算はどうすればよいか?
    A. 血液製剤の使用指針等には次のように示されている。なお、本書「参考資料」に血液製剤投与早見表を掲示した。

    • <赤血球液>
     予測上昇Hb量(g/dL)=投与Hb量(g)/循環血液量(dL)
    o 循環血液量:70mL/㎏
     {循環血液量(dL)=体重(㎏)×70mL/㎏/100}
    o 2単位400ml製剤の1血液バッグ当たりの総Hb量 赤血球液(RBC-LR-1) 約53g
    • <FFP>
     投与血漿量(mL)=8~12(mL/㎏)×体重(㎏)
    o 循環血漿量(mL)=70mL/体重×(1-Ht/100)≒40mL/㎏
    o 凝固因子の血中レベルを20~30%上昇させるための血漿量=40mL/㎏×0.2~0.3=8~12mL/㎏
    • <PC>
     予測血小板増加数(/μL)=輸血血小板総数/{循環血液量(mL)×103}×2/3
    o 循環血液量:70mL/㎏
     {循環血液量(dL)=体重(㎏)×70mL/㎏/100}
    o 2/3は輸血された血小板が脾臓に捕捉されることを予測した補正係数
    • <アルブミン>
     必要投与量=期待上昇濃度(g/dL)×循環血漿量(dL)×2.5
    o 循環血漿量(dL)≒0.4dL/㎏
    o 投与アルブミンの血管回収率 40%
    ☆参照資料:
    輸血用血液製剤投与早見表:輸血情報「0706-107 」
    http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_yuketu0706-107_090805.pdf
    血液製剤の使用指針(赤血球液、FFP、PC、アルブミン):
    輸血情報「0511-92」
    http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_yuketu0511-92_090805.pdf
    輸血情報「0706-106」
    http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_yuketu0706-106_090805.pdf
    輸血情報「0511-93」
    http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_yuketu0511-93_090805.pdf
    輸血情報「0601-95」
    http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/iyakuhin_yuketu081015-11.pdf
    文責:藤井 康彦
    赤血球製剤の加温は必要か?
    A. 通常の輸血では加温の必要はない。
    以下のような場合には、保冷されている赤血球製剤等をそのまま輸血すると患者の体温低下による不整脈・心拍出量低下などを誘発し心不全を引き起こす場合があるため、37℃を超えない範囲での加温が必要とされている。

    ・100ml/分を超える急速輸血
    ・30分以上にわたる50ml/分を超える成人の急速輸血
    ・心肺バイパス術の復温期における輸血
    ・新生児への交換輸血
    ・15ml/kg/時を超える小児の輸血
    ・重症寒冷自己免疫性溶血性貧血患者への輸血

    加温する場合は、血液加温装置や急速輸血装置を用いる。装置については、故障が原因の事故例が報告されていることから、定期的な保守点検を行うこと。

    ☆参照資料:輸血用血液製剤取り扱いマニュアル 7ページ 2010年11月改定版 日本赤十字社
    文責:井本 しおん
    長時間を要する輸血の注意点は?
    A. 1回量の血液を輸血するのに6時間以上を要する場合は、使用血液を無菌的に分割して輸血し、未使用の分割分は使用時まで2~6℃に保存する。

    ☆参照資料:血液製剤の使用指針
    文責:井本 しおん
    不規則抗体保有患者への輸血(赤血球製剤)について
    A. 患者が不規則抗体を保有している場合にはその抗体を同定し、37℃で反応し臨床的に意義のある不規則抗体である場合は、同種の抗原を持たない血液(適合血)を使用する。
    血液センターでは現在、臨床的に意義のある抗体に対応する11抗原(Rh血液型:C, c, E, e、Kidd血液型:Jka, Jkb、Duffy血液型:Fyb、Diego血液型:Dia、MNSs血液型:M, S、Lewis血液型:Lea)について抗原陰性血スクリーニングを実施している。
    輸血する可能性のある患者には予め不規則抗体検査を実施し、不規則抗体が検出されたら、それがスクリーニング対応のものかどうか確認しておく。血液センターへ適合血を依頼する場合、特にスクリーニング対応でない不規則抗体の場合は検索に時間を要することもあるため、早めに連絡すること。
    文責:井本 しおん
    TRALIを考慮すると、外来での輸血では患者への対応をどのようにすればよいか。
    A. TRALIは輸血後6時間以内に発症するとされているが、患者を長時間病院に留めるのは現実には困難なことが多い。院内の輸血療法委員会で、TRALIを想定して患者が帰宅後(あるいは帰宅途中)で副作用が起きた場合の対応方法を決めておく。以下のような対策を取っている医療機関もある。
    1)外来スタッフは、研修会等によってTRALIについての認識を持つ
    2)帰宅後の患者から異変を感じて連絡があった場合の対応法を決めておく
    3)患者には、輸血時に「輸血直後でなくても副作用が起きる可能性と、異変を感じた場合に速やかに連絡してもらうこと」を説明する

    参考資料:
    輸血副作用対応ガイドVer.1 日本輸血・細胞治療学会
    文責:井本 しおん
    ABO不適合PCは適合のものと比べ輸注効果に差はあるのか?
    また、ABO不適合のHLA-PCの輸注効果と副作用抑制方は?
    A. 血小板回収率はABO適合PC:58-75%(平均67%)に対し、ABO不適合PC:7-48%(平均19%)と不適合PCの方が低かったとの報告がある。HLA適合PC輸血においてABO血液型まで合わせることが困難な場合があるが、ABO不適合HLA-PCの輸血効果については、効果があるとの報告もあれば、効果が低いとの報告もある。また、副作用の抑制には、原因となることのある血漿中の抗A, 抗Bやその他の血漿タンパク成分を除去することを目的に、血小板を洗浄する方法(洗浄血小板)と血漿成分をAB型に置換する方法(血漿置換)の二通りがある。
    文責:北澤 淳一
    血小板製剤の輸血において、ベッドサイドでの白血球除去フィルターは使用しなくて良くなったのか?
    A. 各都道府県知事あて厚生労働省医学食品局通知「血小板製剤の使用適正化の推進及び輸血療法の実施に関する指針の一部改正について」(平成16年9月17日付薬食発第0917005号)により、平成16年12月1日以降の血小板製剤の使用に当たっては、白血球除去フィルターの使用は推奨しないこととされた。
     これは、日本赤十字社が、以前より輸血副作用の予防の一環として保存前白血球除去の取り組みを進めてきた結果として、今般、成分採血由来の血小板製剤について採血時に白血球除去を行うことが可能な成分採血装置への切り替えが完了し、平成16年】10月25日採血分の血小板製剤から全て保存前白血球除去された製品を届けることができるようになったことによる。
     日本赤十字社では、血小板製剤ばかりではなく、赤血球製剤についても、保存前白血球製剤が供給されている。PC-1、PC-2という血小板製剤が作成される際にも、白血球除去された後に作成されており、上記製剤においても白血球除去フィルターは必要ない。
    文責:北澤 淳一
    放射線照射血の適応となる患者は?
    A. 「輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドラインⅤ」では次のように適応を定めている。

    「3」1.(1)放射線照射の適応(p6)
     患者の基礎疾患や手術の有無、または併用治療によって発症のリスクは異なるが、発症リスクのない疾患や輸血は非常に限定され、日常の輸血に際してその適応を識別するのは容易ではないことから、新鮮凍結血漿を除くすべての輸血に際して輸血用血液の照射を実施すべきである。

    参考文献:輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドラインⅤ
    http://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/themes/jstmct/images/medical/file/guidelines/Ref8-2.pdf
    文責:北澤 淳一
    輸血後GVHD予防における放射線照射の作用機序は?また、FFPへの放射線照射は必要ないの?
    A.  輸血後GVHDは、輸血用血液中に含まれる供血者のリンパ球が排除されず、むしろ患者のHLA抗原を認識し、急速に増殖して、患者の体組織を攻撃、傷害することによって起きる病態である。
     リンパ球は他の血液成分に比較して著しく高い放射線感受性を有する。この性質を利用し、治療上有用な血液成分への影響が少ない低線量の照射でリンパ球のDNAを切断し、輸血後の患者体内での増殖を阻害する。
     FFPの輸血でGVHDを発症したという確定例はないこと、融解後のFFPに含まれるリンパ球の異種反応性はほとんどなく、輸血後GVHDを起こすとは考えにくいとする報告もあることから、放射線照射の対象から外れている。

    参考文献:輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドラインⅤ
    http://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/themes/jstmct/images/medical/file/guidelines/Ref8-2.pdf
    文責:北澤 淳一
    FFP-LR480は融解後3時間以内に輸血できないのではないか?
    A.  成人の場合、通常、輸血開始から最初の15分はゆっくり(1mL/分)輸血し、患者の状態が落着いていれば、その後5mL/分程度の速さで輸血するとされている。
     したがって、FFP-LR-480の場合
    (480-15)/5+15=108(分)=1時間48分となり、融解後3時間以内の輸血は充分可能と考えられる

    参考文献
    輸血用血液製剤取り扱いマニュアル 日本赤十字社
    文責:岩尾 憲明
    FFPの輸血時に輸血セットを使用する必要があるか?
    A. ろ過装置を具備した輸血用器具(輸血セット)を使用する。輸液セットは使用しない。なお、輸血用器具(輸血セット)とは、生物学的製剤基準・通則45に「人全血液等の血液製剤の輸血に適当と認められた器具であって、そのまま直ちに使用でき、かつ、1回限りの使用で使い捨てるものをいう。」と記載されている。

    参考文献
    輸血用血液製剤取り扱いマニュアル  日本赤十字社
    文責:岩尾 憲明
    FFPを栄養源として使用することは有効か?
    A.  FFPを蛋白質源やカロリー源として使用するのは不適切である。

    参考文献
    血液製剤の使用指針
    文責:岩尾 憲明
    FFPとPCの場合、Rh(-)患者に対してRh(+)の製剤を輸血してもよいか?
    A. FFPとPCでも患者がRh陰性の場合にはRh陰性の製剤を使用することが望ましく、特に妊娠可能な女性では推奨される。しかし、必要時にRh陰性の製剤が供給可能とは限らないのでRh陽性のFFPやPCが使用されることがあり、緊急時にはRh陰性者にRh陽性の血小板製剤を使用してもよいとされている。FFPやPCの1バッグに含まれる赤血球量は極めて微量なので繰り返し輸血を受けてもD抗原による免疫応答は起こりにくいと考えられる。また、高力価抗Rh人免疫グロブリン(RHIG)の投与により抗D抗体の産生を予防できる場合がある。

    参考文献
    血液製剤の使用指針
    輸血学(改訂第3版) 遠山博 編 中外医学者
    文責:岩尾 憲明
    輸血用血液製剤と薬剤との混合投与は可能か?
    A. 薬液との混合投与は避ける。

    <輸血用血液>
    混合投与の影響として、カルチコール等カルシウム含有製剤による凝固系の活性化やフィブリンの析出、 ハイカリック等ブドウ糖含有製剤による赤血球の凝集、デキストラン等血液代用剤による赤血球集合の促進などが挙げられる。

    薬物点滴ライン側管からの輸血用血液製剤も避ける。やむを得ない場合にはライン主流部(三方活栓部等) から留置針までのラインを短くして行い、輸液から輸血への切り替え時には生理食塩液でラインをリンスすること。
    ☆参照資料:輸血情報「9609-29」

    混注できない薬品一覧(日本赤十字血液センター輸血情報「9609-29」参照)
    分類 薬剤名 影響
    カルシウム含有薬剤 カルチコール、コンクライトCa、ポタコールR、ヴィーンF・D、トリフリード、アミノフリード、フィジオ35、ハイカリック1号・2号、アミノトリパ1号・2号、ピーエヌツイン1号・2号、フルカリック1号・2号・3号、ミキシッドL・H、キンダリーAF2号、サブラッドBD カルシウムが凝固系に作用し、血液は凝固する。
    ブドウ糖含有薬剤 5%ブドウ糖液、10%ブドウ糖液、ハイカリック1号・2号、フィジオ35、ソルデム1・3A・3AG・6、トリフリード、アミノフリード、ヴィーン3G・D、アミノトリパ1号・2号、ピーエヌツイン1号・2号・3号、フルカリック1号・2号、ミキシッドL・H 赤血球の凝集を高め、泥状になる。
    糖単独薬剤 5%ブドウ糖液、10%ブドウ糖液、50%ブドウ糖液、5%果糖液 溶血
    ビタミン剤 ビタメジン、アスコルビン酸、ケイツー、ビタジェクト 赤血球製剤は褐色~黒褐色に変化する。
    抗生物質 ミノマイシン、トブラシン、ケフリン 血漿製剤と混合投与すると凝固することがある。
    赤血球製剤は、褐色~黒褐色に変化する
    血漿代用剤 低分子デキストラン 赤血球集合を促進する。
    グロブリン製剤 献血ヴェノグログリン-IH、献血ベニロンI、ポリグロビンN、ガンマガード、献血グロベニン-I 抗A抗B凝集素等により赤血球集合を促進する。
    蛋白分解酵素阻害剤 レミナロン、エフオーワイ、トラネキサムサン 血漿製剤と混合投与すると凝固することがある。

    *記載がない薬剤については、データがないということで、混合投与が可能ということではない。

    <アルブミン>
    配合不適な薬剤はタンパク質加水分解物、アルコール含有液、脂肪乳剤等である。 しかし、その他の輸液であっても5%ブドウ糖や生理的食塩水等などpHが中性に近い輸液・補液以外の薬剤との配合は避けるべきである。
    ☆参照資料:輸血情報「9512-17」
    文責:大石 晃嗣
    輸血用静脈針の太さはどれくらいが適当か?
    A. 輸血用静脈針は大人では通常18G以上16G以下(小児では21G以上)の太さのものを使用することが望ましい。血管が細く穿刺が困難な患者にはこれより細い針の使用が必要となるが、この場合には、溶血を避けるため加圧することなくゆっくりとした速度で輸血し、輸血の途中あるいは輸血後の溶血の有無に注意する必要がある。
    文責:大石 晃嗣
    輸血セットには赤血球用と血小板用があるがその違いを教えてほしい
    A. 輸血セットについては、それぞれの製剤専用の輸血セットを使用することが望ましい。

    赤血球用および血小板用の輸血セットには、血液製剤中のフィブリン塊や大凝集塊(マクロアグリゲート※1)を除去するために異なる口径の濾過膜(メッシュ)が使用されている。血小板輸血セットではメッシュの口径は赤血球用のものより小さく、輸血セットに残存する血液製剤の量(デッドボリューム)を減らすためにメッシュは先端コネクター部にある。新鮮凍結血漿(FFP)輸血には、一般的には赤血球用輸血セットを使用する。一例として某メーカーの輸血セットの規格を以下に示す。 なお、輸血セットの規格はメーカーごとに異なるため、詳細はそれぞれのメーカーに問い合わせること。

    輸液ポンプを使用する場合には、輸血セットのルート部分をローターで圧迫するため、溶血しにくい素材と口径が求められる.したがって、輸液ポンプ対応型の輸血セット(テルフュージョンポンプ用輸血セットなど)を用いる必要がある。

    ※ 1 マクロアグリゲート:顆粒球、血小板、フィブリン、赤血球などからなる混合物であり、保存中の細胞成分が崩壊した結果、少量残存する血漿中の凝固因子が活性化され、フィブリン形成が進んだものと考えられる。

    輸血セット 輸血セット
    (血小板用)
    メッシュの口径 175~210 μm 140~170 μm
    メッシュの位置 点滴筒上部 先端コネクター
    容量 25 mL 9 mL
    デッドボリューム 8 mL 3.5 mL


    (参考) 赤血球の大きさ 6~9.5 μm (平均 8μm)
        血小板の大きさ 1.5~3.5 μm (平均 2μm)
    文責:大石 晃嗣
    輸血を施行する時の全般的な注意事項は?
    A. 1. 事務的な過誤による輸血事故を防ぐため、輸血の準備及び実施は一回一患者ごとに行い、輸血用血液製剤と患者との適合性を患者名、血液型等にて確認する。確認時は各チェック項目を二人で照合し、記録する。
    2. 輸血用血液製剤の外観に異常を認めた場合は使用しない。
    3. 他の薬剤との混注は避ける。
    4. 輸血時は輸血セットを使用する。
    5. 通常、最初の10〜15分間は1分間に1mL程度、その後は1分間に5mL程度の速さで輸血する(成人の場合)
    6. 輸血開始後少なくとも5分程度は患者の状態を観察し、急性反応の有無を確認する。また、15分程度経過した時点で再度、患者の様子を観察する。その後も適宜観察を続ける。
    7. 輸血副作用発生時には直ちに輸血を中止し、適切な処置を行う。

    参考文献:輸血用血液製剤の取り扱いについて。1408−138(2014年)。
         日本赤十字社血液事業本部学術情報
    文責:加藤 栄史

4.自己血輸血
  • (1)実施方法(エリスロポエチンを含めて)

    貯血式自己血輸血を始める場合、どのような装置、器具の整備が必要か?
    A.
    ・自己血採血時に必要な装置・器具
    消毒用エタノール綿、ポビドンヨード液、採血バッグ、駆血帯、ペアン鉗子、チューブシーラー、ローラーペンチ、1Kg用台秤(減圧採血装置)、自己血専用ラベル

    ・自己血保管に必要な装置・器具
    自己血専用保冷庫(自動温度記録及び警報装置を備えた血液専用保冷庫)
    文責:面川 進
    採血量過不足な自己血の使用可否について
    A. カルシウム濃度が正常範囲にある場合、理論的には100mLの血液に対してCPD液は5.3~6.48mL 入っていれば凝固は起こらないことになる。
    この範囲から外れる場合には以下の内容を参考にし、 医療機関にて使用可否の判断をする。

    <採血量不足>
    400mL採血用CPDシングルバッグに200mLの全血を採血した場合、 in vitroでは内容血液の品質は適量採血されたものと有意差はないとの報告があるが、 臨床的な裏付けはない。
    使用する場合は、抗凝固剤の濃度が通常の2倍程度になるので、輸血速度に注意する必要がある。
    <採血量過剰>
    200mL採血用CPDシングルバッグに300mLくらい採血してしまった場合、CPD液の不足による血液凝固が考えられる。
    文責:面川 進
    自己血採取に伴う合併症にはどんなものがありますか
    A.  代表的な合併症として血管迷走神経反射があります。VVR(Vaso-Vagal Reflex)と略して呼ばれることも多く、1~2%の頻度でみられるとされています。症状としては、気分不良、冷汗、顔面蒼白などの軽い症状のことが多いですが、まれに意識消失・痙攣等の重篤な症状が起こることもあり、注意が必要です。早目に察知して、対処することが重要です。その他、全身倦怠感、めまい、頭痛などがおこることもあります。
    文責:田中 朝志
    自己血採取の禁忌となる病態はどのようなものですか
    A.  菌血症の可能性のある細菌感染症、不安定狭心症、中等度以上の大動脈弁狭窄症、重篤な心不全などです。
    文責:田中 朝志
    自己血採取終了後の注意事項はありますか
    A.  自己血採取の終了後も、数時間以内は遅発性の血管迷走神経反射がおこる可能性があります。水分を十分に補充し、激しい運動や飲酒などは避けることが必要です。また原則として車の運転や採血後2時間以内の入浴も避けるべきとされています。何か気になる症状が出たら病院へ連絡あるいは受診するよう説明しておくことが望まれます。
    文責:田中 朝志
    自己血の保存中に凝血塊が発生することがあるが,その予防策はあるか?
    A. 赤血球とFFPに分離して保存する,白血球を除去して保存する,ことにより凝血塊の発生を減らすことができる。
    文責:藤井 輝久
    自己血輸血時に交差適合試験は必要か?
    A. 原則として、患者の交差適合試験用検体と自己血のセグメント内血液について交差適合試験(主試験)を行う。場合によっては、自己血のセグメントについて、ABO血液型、Rho(D)抗原を確認するのみでもよいとされている。

    ☆参照資料:自己血輸血「採血及び保管管理マニュアル」
    文責:藤井 輝久
    直接クームス陽性患者の自己血輸血について注意点を教えてほしい
    A. 保存中に溶血する場合がある。そのため,赤血球とFFPに分離して保存することで保存中の溶血を防ぎ,かつ輸血後の患者にも効果を得られた,とする報告がある。
    文責:藤井 輝久
    ウイルス感染者の自己血の保管について
    A. 原則として制限はないが、施設内の輸血療法委員会あるいは倫理委員会の判断に従う。また、原則として感染血液専用保冷庫にて、その旨を表示し保管する。

    #参考資料:日本自己血輸血学会貯血式自己血輸血実施指針(2014)
    文責:加藤 栄史
    自己血の使用期限はいつまでか?
    A. 自己血の使用期限は採血した血液バッグの添付文書に記載されている。なお、血液保存液がCPD液の場合は採血後21日まで、CPD-A1液(アデニン添加)では35日まで、MAP液の使用では採血後42日までとされている。

    ☆参照資料:自己血輸血「採血及び保管管理マニュアル」
    文責:加藤 栄史

5.細胞治療
  • (1)造血幹細胞移植(幹細胞採取、G-CSFの使用を含めて

    患者とドナーとのABO血液型が異なる同種造血幹細胞移植での輸血はどのようにしたら良いか?
    A. 患者とドナーとのABO血液型が異なる場合は、原則として、移植後早期の輸血は患者型、ドナーの血液型の赤血球が出現した以降はドナーの血液型の血液製剤を選択する。詳細は下記のグラフを参考にする。


    参考文献
    血液型不適合移植。小寺良尚、齋藤英彦監修、造血細胞移植マニュアル。日本医学館、p497-503, 2004
    文責:加藤 栄史
    末梢血幹細胞を凍結保存する場合、細胞数濃度が決められているか?
    A. 末梢血幹細胞を凍結保存する場合、細胞凍害保護液が用いられる。一般的に、細胞凍害保護液としてジメチルスルホキシド(DMSO)が使用される。一つの方法として、最終濃度が10%DMSO、10%血清で細胞濃度が1〜5×107/mlである。この場合、一般的にプログラムフリーザーを使用して段階的に温度を下げる。もう一方、CP-1(最終濃度が5%DMSO, 6%Hydroxyethyl starch (HES), 4%アルブミン)の溶液を用いる方法がある。この場合の細胞濃度も1〜5×107/mlである。CP-1を用いた場合、プログラムフリーザーを使用せず、直接−80℃のフリーザーに保存することが可能である。

    参考文献
    ・ 牧野茂義、原田実根他. 骨髄及び末梢血幹細胞の簡易凍結保存法。医学のあゆみ、1989, 151: 65-66.
    ・ Makino S, et al. A simplified method for cryopreservation of peripheral blood stem cells at -80 degrees C without rate-controlled freezing. Bone Marrow Transplant, 1991, 8: 239-44.
    文責:加藤 栄史
  • (2)その他の臓器移植時の検査、輸血

    ドナーとレシピエントの間で血液型が違っても肝移植や腎移植は可能か?
    その場合、何型の血液製剤を使って輸血すべきか?
    A. <血液型不適合臓器移植の現状>
    血液型不適合の臓器移植とは、レシピエントのA型あるいはB型に対する抗体がドナーの赤血球に反応する組み合わせをいう。一方、血液型適合臓器移植とは、ドナーとレシピエントのABO血液型が一致しているか、血液型が違ってもレシピエントの抗体がドナーの赤血球に反応しない場合をいう。
    血液型不適合の臓器移植は、移植臓器の血管内皮上に発現している血液型抗原にレシピエント由来の自然抗体が結合し臓器障害や拒絶を惹起するため、以前は禁忌と言われていた。しかし、その後拒絶反応のメカニズムが明らかにされ、移植前にリツキシマブ等を用いて、レシピエントのリンパ球が産生する新しい(de novo)抗体を抑制する免疫抑制療法(脱感作療法)が開発され、腎移植をはじめ肝移植においても血液型不適合の移植成績が格段に向上してきている。

    レシピエント ドナー
    適合 不適合
    一致 不一致 不適合
    A型 A型 O型 B型,AB型
    B型 B型 O型 A型,AB型
    AB型 AB型 A型,B型,O型 -
    O型 O型 - A型,B型,AB型


    <移植後の輸血について>
    血液型不適合の臓器移植における術中・術後の輸血では,原則として赤血球製剤はレシピエント血液型を,血小板と血漿製剤はAB型を用いる。 血小板と血漿製剤でAB型を用いる理由は、不適切な血液型の血液製剤の輸血により、血漿中に含まれるドナーの血液型抗原に反応する抗体が拒絶を惹起することを防ぐためである。

    ☆参照資料:
    ABO血液型不適合移植の新戦略 –2013- 高橋公太、田中鉱一著 日本医学館
    ABO-incompatible kidney transplantation. K Takahashi, K Saito. Transplantation Reviews 27;1-8, 2013
    文責:大石 晃嗣
    ABO型が不一致(メジャーミスマッチ)の肝移植において、どのような処置を行うべきか。
    A. ABO不適合移植では、抗A、抗B抗体の力価が術後早期の重症な超急性拒絶反応、また肝細胞壊死や肝内胆管合併症と密接に関係していることが確認されている。このことから、抗体価を下げることを目的とした血漿交換療法や脾臓摘出術、免疫抑制剤の投与が必要になる。また、近年、抗原抗体反応による症状緩和に有効なプロスタグランジンE1、メシル酸ガベキサートの門脈内注入や肝動注が試みられている。
    文責:津野 寛和
    肝移植の周術期において、ヘモグロビン値をどの程度に維持することが推奨されているか。
    A. 肝移植に際して、輸血後のヘモグロビン値を6-8g/dlに維持することが推奨されており、臓器機能不全を伴わない患者であれば、周術期の輸血適応基準を6g/dl以下としている。また、一般的に生体肝移植患者は、死体移植(脳死移植)患者よりも凝固機能が保持されていることが多く、必要輸血量は少ないとされている。
    文責:津野 寛和
  • (3)免疫細胞療法

    免疫細胞療法にはどのような種類がありますか?
    A.  免疫とは、体の内部環境を一定状態に保とうとする恒常性・ホメオスタシスの一機能です。すなわち、体に害を及ぼす恐れのある微生物やウイルスなどの外来異物や、体内の変成細胞や物質を除去します。一方、正常な自己細胞や体にとって有用な腸内細菌等には反応しない、あるいは反応してもそれを抑制する働きもあります。局所あるいは全身の免疫機能異常が様々な疾患に関わっています。そこで免疫担当細胞の働きを利用して、人為的に体内の免疫環境を変え、様々な免疫が関連した疾患や状態を改善する治療を免疫細胞療法といいます。
     生体にとって好ましくない異物を排除するという働きを応用した治療には以下の方法があります。難治性感染症に対する免疫細胞療法としては、慢性EBV感染症やCMV感染症に対する活性化自己T細胞輸注療法などがあります。また、自己の異常細胞である悪性腫瘍に対しては、様々な免疫細胞療法が開発されており、活性化T細胞療法、抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)療法、樹状細胞(DC)を用いたワクチン療法、NK細胞療法、NKT細胞療法、γδ型T細胞療法などがあります。また、遺伝子工学技術を利用して抗原特異的なキメラ型受容体を用いた遺伝子改変T細胞療法もあります。また、自家細胞ではなくiPSから免疫担当細胞を作る技術も開発されています。
     また、過剰な免疫反応が好ましくない状態もあります。免疫の調整や抑制を応用した細胞治療には以下のものがあります。間葉系幹細胞は、骨、軟骨、心筋、脂肪、神経等に分化する事が可能であり、再生医療にも用いる細胞です。一方、間葉系幹細胞のもつ免疫調整・抑制活性を用いて、造血幹細胞移植後GVHD制御や膠原病などの自己免疫性疾患に対する細胞療法にも応用されています。T細胞の活性化には、T細胞受容体からの抗原刺激の他に抗原提示細胞からの副刺激が必要です。副刺激を抗体等でブロックすることで、抗原特異的な免疫制御性T細胞を得ることができます。この機序を利用して、臓器移植前にドナー特異的免疫制御性T細胞を投与する免疫寛容導入療法もあります。
    文責:菅野 仁
    免疫細胞療法を実施する上で遵守すべきガイドライン・法律にはどのようなものがありますか。
    A.  免疫細胞療法は免疫担当細胞の働きを利用した細胞療法の一種で、参照すべきガイドライン・法令には以下のものが挙げられます。
    医師法(昭和23年法律第201号)、歯科医師法(昭和23年法律第202号)、医療法等の法令や各種ガイドライン等を遵守することは当然とし、特に再生・細胞医療を実施する上では、「臨床研究に関する指針」(平成20年厚生労働省告示第415号)、「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(平成25年厚生労働省告示第317号)、「医療機関における自家細胞・組織を用いた再生・細胞医療の実施について」(医政発0330第2号)、「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の製造管理・品質管理の考え方について」(薬食監麻第0327025号)及び「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質および安全性の確保について」(薬食発0907第2号)があります。遺伝子改変T細胞療法では、さらに「遺伝子治療臨床研究に関する指針」(平成20年一部改正)も必要です。
     ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の適応範囲は、再生を目的と明記され、免疫担当細胞による癌治療は対象外となっております。しかし、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」では、再生を目的とするかしないかに関わらず、細胞治療のリスクに応じて分類されております。例えば、増殖因子等を用いて活性化した自己リンパ球療法は、低リスクとして第三種再生医療等技術に含まれると考えられますが、遺伝子工学技術を用いて改変したT細胞受容体を導入した細胞を用いた癌免疫療法は、リスクが高いと考えられ、第一種再生医療等技術に分類されると思われます。よって、ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針も参考が望ましいと思われます。ガイドライン等を一律的に適応するのではなく、科学技術の進歩によりガイドライン等も改訂され、常に新しいガイドライン等を参照する事が重要です。
    文責:菅野 仁
    免疫細胞療法を実施する上で遵守すべき「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」とは
    どのようなものですか?
    A.  本邦において、薬事法下で製造販売が承認されている免疫細胞療法はまだありません。免疫細胞療法の現状は、大学病院等で厚労省のガイドラインに基づき臨床研究として実施しているものと、民間クリニック等で自由診療として実施されているものがあります。自由診療では、どのような治療が行われているかの実態が不明で、幹細胞投与後の死亡事例や、無規制の日本へ海外から幹細胞を持ち込んでの細胞投与などの事例が認められ、安全面でのルール作りが課題となっておりました。その状況を鑑みて平成25年11月20日「再生医療等の安全性の確保等に関する法律案」が成立しました。「再生医療等」となっていますが、枠組みの対象として想定されているものには、iPS等の幹細胞を用いた再生医療の他に、臓器・組織の再生を目的としない間葉系幹細胞を使用するGVHD(移植片対宿主病)に対する治療薬や、癌に対するリンパ球療法、樹状細胞療法なども含まれており、法律施行後は、遵守しなければなりません。これは、厚生労働大臣への医療提供計画の提出を義務づけたもので、提出せずに医療を行った場合は罰則が適応されます。本法律案の趣旨は、「再生医療等の迅速かつ安全な提供等を図るため、再生医療等を提供しようとする者が講ずべき措置を明らかにするとともに、特定細胞加工物の製造の許可等を定める」とされています。
     特定細胞加工物とは、細胞加工物の原材料となる人または動物の細胞を培養、その他加工を施したもので、再生医療等製品以外のものとなっています。現在再生医療等製品として認められているものは、自家培養表皮(ジェイス®)と自家培養軟骨(ジャック®)の二製品のみです。本法律ではリスクを考慮して、安全性確保対策の必要度を高・中・低の3段階に分け、それぞれ第一種、第二種、第三種再生医療等技術としております。具体的にどの細胞治療が入るのかは今後厚生科学審議会で検討されますが、活性化リンパ球や樹状細胞を用いた癌免疫療法は第三種、遺伝子導入リンパ球を用いた癌免疫療法は第一種、間葉系幹細胞を用いた治療は第二種に当てはまると思われます。また、特定細胞加工物を製造する施設は厚生労働省令に定められる基準に適合したものではならず、施設毎に厚生労働大臣の許可を受ける必要があります。
    文責:菅野 仁
    免疫細胞療法を実施する上で必要な設備にはどのようなものがありますか?
    A.  「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」において、細胞加工施設(病院もしくは診療所に設置されるもの)は、細胞培養加工施設毎に、施設の管理者、製造する特定細胞加工物の種類とともに、構造設備に関する書類等を提出する必要があります。そして、厚生労働省令で定める基準に適合している必要があります。現在のところ具体的な基準についての通達はありませんが、従来の「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(平成22年厚生労働省告示第380号),「医療機関における自家細胞・組織を用いた再生・細胞医療の実施について」(医政発0330第2号),「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の製造管理・品質管理の考え方について」(薬食監麻発第0327025号),及び「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」(薬食発0907第2号)に示された加工施設基準に準じるものと思われます。
     基本的には清浄度に合わせた区域区分がなされ、清浄区域は、重要区域とそれに隣接する直接支援区域があります。それぞれHEPAフィルターで濾過された空気供給と温度・湿度管理や調整室間の圧格差によって適切な換気と気流制御がされています。重要区域は無菌環境が維持でき、外部環境への影響を最小限にするため、バイオハザード対策用キャビネットの設置等がある。また、定期的な環境モニタリングや使用機器のバリデーションが必要である。
    文責:菅野 仁
    免疫細胞療法を実施する上でどのような品質試験が必要ですか?
    A.  個々に条件の異なるヒトの細胞から細胞製剤を作るときは、細胞数や目的とする細胞の含有率等にばらつきが生じます。試験薬標準書に予め品質基準を決めておくことが大切です。
    必要な品質試験としては、効能に影響を及ぼす培養細胞の解析の他に、安全性担保の試験として無菌試験、マイコプラズマ負含試験、エンドトキシン試験が必要です。免疫細胞療法を先進医療として申請する場合は、日本薬局方に準じて行うことが求められます。 エンドトキシンの混入は自然免疫を活性化させる作用があり、予測外の反応が惹起される可能性があります。エンドトキシン試験は日米欧三薬局方間で試験法の標準化がなされ、本法では第十六改正日本薬局方にて2011年から施行されております。注射用水のエンドトキシンの規格値が0.25EU/mL未満となっており、静脈投与での細胞製剤も同程度の基準が求められます。
     無菌試験を行う上で適している培地は以下のものです。嫌気性細菌・好気性細菌は液状チオグリコール酸培地と真菌・好気性細菌の培養にはソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地です。無菌性の判定は14日間培養して微生物の増殖を認めないこととしてあります。実際には、可能なかぎり培養中に1回と最終作業が終了した製品からサンプルを採取し、細胞製剤投与までに菌の発育を認めない場合は合格として出庫し、最終的には14日培養した結果で最終報告とします。
     第十六版改正日本薬局方にはマイコプラズマ否定試験として、A.培養法、B.指標細胞を用いたDNA 染色法、C.PCR 法の3 種の収載があります。A 法とB 法を組み合わせて行うことが求められ、C 法は、A 法及びB 法を補完する試験法としての位置付けとなっています。A 法は、判定までに28 日以上の日数を要し、B 法も1 週間程度の日数を要するため、培養工程中に試験を実施しても検査結果が投与後にしか得られません。対象となる細胞は、マスター・セル・バンク、ワーキング・セル・バンク及び医薬品製造工程中の培養細胞と明記されており、個々の患者から採取した細胞を材料にする免疫細胞療法にも当てはめる必要があるのかは議論のあるところです。現実的には、PCR法にて製剤の品質管理をして、必要に応じてA 法とB 法を実施できるようにまた、最終加工細胞の一部を-60℃以下にて保管するのが望ましいと思われます。
    文責:菅野 仁

6.輸血副作用と対策
  • (1)輸血副作用の把握体制

    厚労省への報告が必要な副作用とはどんなものをいうか?報告期限はあるのか?
    A. 平成9年4月から、医薬品の副作用及び感染症情報の収集・報告が法制化され努力目標であったが、 平成14年7月に改正された新薬事法では、医薬品によるものと疑われる副作用・感染症の発生に 関する事項を知った場合、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは 厚生労働大臣に報告しなければならないとされた。

    厚生労働大臣へ報告の必要な重篤症例とは、次のとおりである。副作用の程度の判断は医師に任されている。

    1. 死亡
    2. 障害
    3. 死亡又は障害につながるおそれのある症例
    4. 治療のために病院又は診療所への入院又は入院期間の延長が必要とされる症例
    5. 1から4までに掲げる症例に準じて重篤である症例
    6. 後世代における先天性の疾病又は異常

    一方、既知の副作用・感染症でも死亡や重篤例、そして添付文書の使用上の注意から 予測できない未知の副作用・感染症で軽微でないものについては、製造販売業者から 厚生労働大臣への報告期限が定められている(最短15日以内)。 なお、既知の副作用で中等度のものや軽微な副作用には報告期限は定められていない。

    ☆参照資料:輸血情報「9711-41」
    文責:加藤 栄史
    血液センターにどんな副作用でも報告するのか?
    A. 副作用・感染症報告は副作用・感染症を的確かつ迅速に把握し、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止することに役立たせ、輸血医療の安全性を向上させることを目的としている。この意味において、医師・検査技師など輸血医療に携わる医療関係者が報告の必要があると判断した症例(重篤症例や原因追求症例など)を報告する。特に、感染症に関しては必須である。
    文責:加藤 栄史
    輸血副作用にはどのような症状がありますか?
    A. 輸血副作用には多種の症状があるが、日本輸血•細胞治療学会で認められた統一した症状項目がある。また、輸血副作用がない場合にもない事を確認する。この症状項目を下記に示す。

    1) 発熱(≧38℃、輸血開始から≧1℃) 10) 頭痛・頭重感
    2) 悪寒・戦りつ 11) 血圧低下
     (収縮期血圧≧30mmHgの低下)
    3) 熱感・ほてり 12) 血圧上昇
     (収縮期血圧≧30mmHgの上昇)
    4) そうよう感・かゆみ 13) 動悸・頻脈(成人:100回/分)
    5) 発赤・顔面紅潮 14) 血管痛
    6) 発疹・じんま疹 15) 意識障害
    7) 呼吸困難
     (チアノーゼ、喘鳴、呼吸状態悪化等)
    16) 赤褐色尿(血色素尿)
    8) 嘔気・嘔吐 17) その他
    9) 胸痛・腹痛・腰背部痛

    参考文献
    ・ 加藤栄史、高本滋. 我が国におけるヘモビジランスの現状と輸血医療における有用性。日本輸血・細胞治療学会誌、2013, 59: 443-9.
    ・ 輸血患者の観察。輸血副作用対応ガイド、p1, 2011.
    ・ 副作用の症状。輸血副作用対応ガイド、p2-4, 2011.
    文責:加藤 栄史
    副作用の発現時間はどれくらいか?
    A. 日本赤十字社の輸血後副作用報告(2013年)によると、最も多い副作用は非溶血性副作用である。そのうち蕁麻疹等が40.1%、呼吸困難が13.2%、発熱反応が11.5%、アナフィラキシーショックが14.4%、アナフィラキシー反応が7.3%、血圧低下が6.1%等である。これらの副作用のうちアナフィラキシーショックや血圧低下の約2割は輸血開始後10分以内に発現している。重篤な副作用発見のため、輸血開始後(5〜15分程度)の観察が特に重要である。また複数の血液製剤を輸血する場合には、血液バッグ交換時毎に同様の観察を行う事が必要である。蕁麻疹、呼吸困難や発熱反応は輸血開始後1時間以上たって発現頻度が高まる。輸血関連急性肺障害(TRALI)は輸血後6時間以内に発症している。 溶血性の副反応には即時型と遅延型があり、遅延型は輸血後数日から数週間後に現れている。輸血後感染症例は、輸血後数ヶ月程度で確認された例や、一年以上経過して感染が確認された例がある。輸血後移植片対宿主症(GVHD)は、未照射血の輸血後1〜2週間前後に突然の発疹・紅班、さらに肝障害や下痢等が現れることがある。なお2000年以降GVHDと確定された例はない。

    参考資料:血液事業部会安全技術調査会資料(2014.6.4), 輸血情報1310-137(日本赤十字社), 輸血情報1209-133(日本赤十字社)、血液事業報告平成25年版(厚生労働省)
    文責:浜口 功
  • (2)溶血性副作用

    急性(即時型)と遅発性輸血副作用で重篤な副作用はどのようなものがあるか?
    A.  アナフィラキシーショック、輸血関連急性肺障害(TRALI)、 ABO不適合輸血による溶血は、それぞれ輸血後4時間以内、輸血後6時間以内、輸血後24時間以内におこる重篤な急性輸血副作用。不規則抗体による溶血、輸血後GVHDは、それぞれ輸血後3〜10日、輸血後7〜14日でおこる重篤な遅発性輸血副作用。
    文責:米村 雄士
    輸血開始後まもなく血圧下降と赤色尿を来した。まず行う処置や検査はどのようなものがあるか?
    A.
    1. 直ちに輸血を中止し、抜針はせず輸液などでルートは確保しておく。
    2. ドパミンなどで血圧を維持。
    3. 異型不適合輸血を疑い、血液型検査などを行う。
    4. ヘモグロビン尿の有無をチェックする。
    5. Hb値、LDH値、ビリルビン値で溶血の程度を検査。
    文責:米村 雄士
    救命のために輸血検査結果が判明する前に未交差O型RCC-LRの緊急輸血が実施された症例で、
    輸血後に行うべき輸血検査は?
    A.  まずは、未交差O型RCC-LRの緊急輸血前に血液型及び不規則抗体の採血を行っているか確認する。救命のために緊急輸血が実施された症例では、事後であっても、不規則抗体スクリーング、交差適合試験、血液型の確定を行うことが重要である。

    表1 緊急輸血症例での不規則抗体による溶血性副作用のリスク管理
    1.救命のために緊急輸血が実施された症例では、事後であっても、不規則抗体スクリーング、交差適合試験、血液型の確定を行う
    2.不規則抗体スクリーニング検査で陽性の場合は抗体同定を行う
    3.自施設で検査が出来ない場合は、赤十字血液センターや検査センターなどに精査を依頼する
    4.不規則抗体(ABO以外の血液型不適合)による溶血反応の発生が予想される場合には、輸血部門から担当医師に直ちに十分な情報提供を行う
    *厚生労働省 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業研究報告書別冊「安全な輸血療法ガイド」
    (http://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/themes/jstmct/images/medical/file/reference/Ref22.pdf)P44より引用
    文責:藤井 康彦
    輸血を必要とする患者で、事前に臨床的に意義のある不規則抗体が検出されたが、
    対応する抗原陰性の血液が間に合わない場合の対応は?
    A.  溶血性副作用のリスクがあっても、救命のために輸血を実施せざるを得ない場合がある。例えば、緊急時に抗Jra保有患者の抗原陰性血が入手できない場合、溶血性リスクを気にして生命予後に影響を及ぼすことになる前に、Jra抗原陽性血を輸血すべきである。抗Jraの不適合輸血は症例によって様々であるが、無症状なことも多く、重篤な溶血性副作用は報告されていない。しかし、重篤な溶血性副作用を起こす主要な抗体(Rh, Duffy, Kidd, Diego血液型抗体、抗S、抗sなど)については熟知しておく必要がある。

    参考文献:厚生労働省 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業研究報告書別冊「安全な輸血療法ガイド」ABO式血液型以外の不適合輸血 P26
    (http://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/themes/jstmct/images/medical/file/reference/Ref22.pdf)
    文責:藤井 康彦
  • (3)非溶血性副作用(感染症を除く)

    輸血後GVHDとはどのような病気か?
    A. 輸血後GVHD(Graft Versus Host Disease:移植片対宿主病)は、輸血用血液中に含まれる供血者のリンパ球(移植片)が排除されず、むしろ患者(宿主)のHLA抗原を認識し、急速に増殖して、患者の体組織を攻撃、傷害することによって起きる病態である。典型的な輸血後GVHDは、輸血を受けてから1~2週間の後に発熱・紅斑が出現し、肝障害・下痢・下血等の症状が続き、最終的には骨髄無形成・汎血球減少症、さらには多臓器不全を呈し、輸血から一ケ月以内にほとんどの症例が致死的な経過をたどる、非常に重篤な輸血合併症である。早期診断でサイクロスポリンA、OKT3の投与により救命された症例が一例のみあるが、確実な治療法はなく発症予防が唯一の対策である。同種血輸血に際して、新鮮凍結血漿を除く全ての輸血用血液に15~50Gyの放射線照射を行うことが最も有効な予防方法である。血液センターでは放射線照射済み輸血用血液を供給している。2000年以降、放射線照射済み輸血用血液による輸血後GVHDの確定症例は報告されていない。

    参考資料:輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドラインⅤ
    文責:百瀬 俊也
    非溶血性副作用にはどのようなものがあるか?
    A. 発熱反応、アレルギー反応、アナフィラキシー反応、アナフィラキシーショック、血圧低下、呼吸困難、輸血関連急性肺障害(TRALI)、輸血関連循環過負荷(TACO)、クエン酸中毒、高カリウム血症などがある。遅発性副作用として、輸血後GVHD、輸血後紫斑病、ヘモジデローシスなどがある。
    ・発熱反応:発熱・悪寒・戦慄などの症状を認める。白血球抗体、血小板抗体などの抗体による抗原抗体反応及び保存中に血液バッグ内で産生されたサイトカインなどが原因として考えられている。
    ・アレルギー反応:発疹・蕁麻疹、掻痒感・かゆみ、発赤・顔面紅潮などの症状が現れる。輸血の1~3%の頻度で生じ、輸血副作用の中で最も多い。患者血液中のIgEと輸血製剤中の血漿タンパク質(アレルゲン)との反応の結果と考えられているが、他の機序でも起こり得る。ほとんどの症例で原因は不明である。
    ・アナフィラキシー反応、アナフィラキシーショック:アレルギー反応のうち、全身潮紅、蕁麻疹、血管浮腫(顔面浮腫、喉頭浮腫等)、呼吸困難などの複数の全身症状を示したものがアナフィラキシー反応であり、アナフィラキシー反応に血圧低下を伴ったものがアナフィラキシーショックである。マスト細胞の脱顆粒を伴うことが多い。IgA欠損症、ハプトグロビン欠損症の受血者で輸血製剤中のIgAやハプトグロビンに対するアナフィラキシー反応、アナフィラキシーショックを生じることが報告されている。
    ・血圧低下:成人の場合は収縮期・拡張期の血圧が30mmHg以上低下し、小児の場合は基準血圧から25%以上低下した場合をいう。輸血開始後30分以内に起きることが多い。
    ・TRALI、TACOは別項に詳述→岡崎先生
    ・クエン酸中毒:急速大量輸血に伴い、クエン酸による血中カルシウム濃度の低下が口唇や手足のしびれ、悪寒、嘔気等の症状を発現する。
    ・高カリウム血症:赤血球製剤の保存に伴い、膜のATPは低下し赤血球中のカリウムは上清中に移動する。人全血液及び人赤血球液の放射線照射製剤の添付文書に、以下のように「警告」表示されているので注意を要する。
    放射線を照射しない製剤よりも保存に伴い上清中のカリウム濃度が増加することが認められており、放射線を照射した赤血球製剤を急速輸血及び人工心肺の充填液として使用した際に一時的な心停止を起こした症例がまれに (0.1%未満) 報告されている。胎児、低出生体重児、新生児、腎障害患者、高カリウム血症の患者及び急速大量輸血を必要とする患者等は高カリウム血症の出現・増悪をきたす場合があるので、照射日を確認して速やかに使用するなどの対処を行うこと。
    ・輸血後紫斑病:受血者血液中の血小板抗原(HPA)システムに対する抗体のために、細胞成分を含む輸血後5 ~ 12 日以内に発症する遅発性の血小板減少症。HLA 抗体が原因となる血小板輸血不応と異なり、受血者自身の血小板も急激に減少し、出血傾向(粘膜出血、血尿、全身多発性出血斑など)を呈することが特徴である。
    ・ヘモジデローシス:再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などで、長期間にわたり頻回に赤血球輸血が行われた場合に、輸血後鉄過剰症による臓器障害(心不全、肝硬変、糖尿病)が発生する。

    参考資料:
    1) 輸血副作用ガイド(日本輸血・細胞治療学会 輸血療法委員会 作成)
    2) Popovsky MA, ed. : Transfusion Reactions, 4th ed. AABB Press, 2012
    3) Roback JD, ed. : AABB Technicl Manual, 17th ed. AABB Press, 2011
    4) King KE, ed. : Blood Transfusion Therapy: A Physician’s Handbook, 10th ed. AABB Press, 2011
    文責:百瀬 俊也
    アルブミンの投与で副作用の報告例はあるか?
    A. 重大な副作用としてショックやアナフィラキシー(様症状)が報告されている。また、肺水腫や心不全、その他にも発熱、顔面潮紅、蕁麻疹、悪寒、腰痛などが報告されている。
    ショック、アナフィラキシー(様症状)の原因としては、血圧低下の原因となる夾雑タンパク質であるプレカリクレインアクチベータやブラジキニンが報告されている。また、ハプトグロビン欠損症で抗ハプトグロビン抗体を有する患者において、これも製剤中の夾雑タンパク質であるハプトグロビンに反応するアナフィラキシーが報告されている。
    また、肺水腫や心不全は急激な循環血漿量の増加によるものと考えられている。
    文責:岡崎 仁
    TACOとはどのような病態か?
    A. TACOはTransfusion associated circulatory overload(輸血関連循環過負荷)の略称である。輸血中もしくは輸血後に起きる循環負荷のための心不全であり、呼吸困難を伴う。定義上は輸血後6時間以内に起こる心不全であり、以下の5項目中4つの項目を満たすものと定義されている:急性呼吸不全・頻脈・血圧上昇・胸部X線上の急性肺水腫または肺水腫の悪化・水分バランスの超過。診断治療は心不全に準ずるが、症状がTRALIと似ているため、鑑別診断が問題となる。特に高齢者,幼児において注意すべき病態である。
    文責:岡崎 仁
    血小板輸血を行っても血小板数が上昇しない場合の対処法について教えてください。
    A. 血小板輸血を行っても期待したように血小板数が上昇しない場合を血小板輸血不応といいます。血小板輸血不応の原因は大きく分けて以下の二つがあります。原因により対策が異なりますのでその鑑別が重要です。
    1. 非免疫学的機序によるもの
    (1) 原因
    ① 大きな脾腫があり、輸血した血小板が脾臓に取り込まれる
    ② 大量出血しており、出血部位で血小板が消費される
    ③ 感染症に罹患している
    ④ 発熱が続いている
    ⑤ DICを起している
    などがあります。
    (2) 対策
     上記原因を改善させることが必要です。容易に改善ができない場合には血小板輸血単位数を増やす必要があります。通常量の倍量投与や血小板輸血を頻回行うなどで対応します。
    2. 免疫学的機序によるもの
    (1) 原因
     受血者血清中に血小板抗体がある。そのため輸血した血小板が早期に破壊され、血小板数が上昇しません。血小板抗体には3種類あります。
    ① HLA抗体
    ② 血小板(特異)抗体
    ③ 血小板自己抗体
     上記のうちHLA抗体と血小板(特異)抗体は同種抗体です。輸血や妊娠などにより産生されたものです。血小板自己抗体を認めるのは多くの場合、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の症例です。
    (2) 対策
    ・血小板同種抗体の場合
     抗体の特異性を検査する必要があります。地元の血液センターなどに依頼して特異性を検査してもらい、特異性が決定されれば当該抗原陰性の血小板を依頼、輸血します。当該抗原陰性血小板を輸血することにより良好な血小板輸血効果が得られます。
    ・血小板自己抗体の場合
     ITP症例の場合で血小板輸血が必要な場合は非常に生命を脅かす出血が起こっている場合です。緊急に止血することが必要なため通常輸血する血小板輸血単位数の2倍量を投与します。輸注1時間後に血小板数を測定し、血小板数の上昇がみられない、あるいは止血がみられない場合は、繰り返し血小板輸血を行います。
    文責:倉田 義之
    TRALIとはどのような病態か?
    A. TRALIとはTransfusion-Related Acute Lung Injuryの略で、日本語では「輸血関連急性肺障害」と呼ばれる。TRALIは、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の概念に含まれる病態であり、発症時に適切な処置が行われないと死亡につながる危険性のある重篤な非溶血性副作用であるが、心原性肺水腫、過量輸液・輸血、肺炎・誤嚥・敗血症・多発外傷など他の原因によるARDS、アナフィラキシーショック等の他の病態との鑑別が必要である。

    病態としては、輸血開始後数時間以内(1~6時間以内で多くは2時間以内)に非心原性の急激な肺水腫による呼吸困難、低酸素血症を伴う呼吸不全を呈し、胸部X 線上に両側性の肺水腫の所見が認められる。使用した輸血用血液に抗白血球抗体が検出されることが多いが、経産婦の血液中にはある程度の確率で抗白血球抗体が存在するため、患者の抗原に一致した特異性を持つ抗白血球抗体が検出された場合に因果関係が深いと判断される。

    治療は輸血中止、呼吸管理(酸素療法、人工呼吸)が行われ、血圧が低下した場合には昇圧剤なども用いられるが、薬物療法として一般的に用いられている副腎皮質ステロイド剤には効果についてのはっきりとしたエビデンスがあるわけではない。循環血液量が過剰状態には無いので利尿剤の投与は効果がないだけでなく有害との報告もある。

    TACOとの鑑別について。輸血による循環過負荷(TACO:Transfusion-associated circulatory overload)による肺水腫との鑑別は臨床的に難しい場合もあるが、治療が異なるので注意しなければならない。心エコーでのEFだけを指標にして心不全ではないと判断すると拡張性心不全を見逃す場合があるので、Vital sign、BNP(NT-pro BNP)の値、患者の性別・年齢、高血圧・糖尿病・慢性腎臓病・心房細動などの合併の有無をもとに総合的に判断する。

    ☆参考資料 日本赤十字社:輸血情報「1304-135」、日本呼吸器学会ARDSガイドライン作成委員会:ALI/ARDS診療のためのガイドライン、循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010 年度合同研究班報告):急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
    文責:岡崎 仁
  • (4)輸血後感染症(ウイルス、細菌、原虫、プリオン、輸血前後の感染症検査)

    血液製剤のウイルス関連検査の開始時期について
    A. ウイルス関連検査項目と開始時期は以下の通りである。2008年8月以降、全ての血清学的検査はCLEIA法で行われている。

    検査項目 導入時期 測定法
    HBs抗原 1972年1月 一次元免疫拡散法
    1972年4月 免疫電気泳動法
    1978年4月 RPHA法
    2008年8月 CLEIA法
    HBc抗体 1989年12月 HI法
    2008年8月 CLEIA法
    HCV抗体 1989年12月 EIA法(第1世代試薬)
    1992年2月 PHA法(第2世代試薬)
    1993年9月 PHA法又はPA法(第2世代試薬)
    2008年8月 CLEIA法
    HIV-1抗体、HIV-2 抗体 1986年11月 EIA法(HIV-1抗体)
    1987年10月 PA法(HIV-1抗体)
    1994年3月 PA法(HIV-2抗体)
    1996年10月 PA法(HIV-1, 2抗体・コンビネーション)
    2008年8月 CLEIA法(HIV-1, 2抗体・コンビネーション)
    HTLV-1抗体 1986年11月 PA法
    2008年8月 CLEIA法
    ヒトパルボウイルスB19抗原 1997年9月 RHA法
    2008年8月 CLEIA法
    HBV-NAT, HCV-NAT, HIV-1 NAT 1997年11月 分画用原料血漿を対象としてミニプールNATを導入
    1999年10月 輸血用血液を対象としてNAT(500検体プール)を導入
    2000年2月 50検体プールNATに変更
    2004年8月 20検体プールNATに変更
    2014年8月 個別NATに変更。測定機器の変更。

    参考資料
    1)輸血情報0107-66:輸血血液の保管検体にウイルス核酸が検出された症例-2000年-
    2)輸血情報0811-116:血液製剤の安全性向上について 
    文責:紀野 修一
    NATの実施でウインドウ期はどれくらいに短縮されるのか?
    A. ウインドウ期には、感染してから核酸増幅検査(NAT)で検出できるウイルス量に達するまでの「NATのウインドウ期」と、血清学的検査で「陽性」と判定されるまでの「血清学的のウインドウ期」の2つがある。NATのウインドウ期では、血液中に存在する微量のウイルスを検出できず、輸血による感染が生じることがある。
    日本赤十字社が実施するNAT検査の検出限界は、HBV-DNA:3.2 IU/mL、HCV-RNA:12.4 IU/mL、HIV-1Group M RNA:41.8 IU/mLである。
    推定される血清学的検査のウインドウ期、NAT検査のウインドウ期を表にまとめる。

    ウイルス 血清学的検査 NAT
    50プール 20プール 個別
    HBV 59(37~87)日 46日 44日 34日
    HCV 82(54~192)日 24.8日 24.5日 23日
    HIV-1 22(6~38)日 14日 13.5日 11日


    日本赤十字社では、平成12年2月から50プールNATを、平成16年8月から20プールNATを導入している。平成26年から個別NATを導入予定である。

    参考資料
    1)血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン(改定版).厚生労働省医薬食品局血液対策課.平成17年3月(平成24年3月一部改正)
    2)輸血用血液等の遡及調査に関するガイドライン(日本赤十字社作成:平成24年3月6日改訂)
    3)輸血情報0811-116:血液製剤の安全性向上について
    文責:紀野 修一
    輸血後感染症の発生頻度は、どの位ですか?
    A. 日本赤十字社の輸血情報1209-133によると2011年に輸血用血液製剤との関連性が高いと考えられた感染症症例数は、B型肝炎ウイルス(HBV) 13例、ヒトパルボウイルスB19 1例であった。また細菌感染が疑われた症例中1例において当該製剤からStreptococcus dysgalactiae subsp.equisimilis (G群溶血性レンサ球菌)が検出されている。20プール核酸増幅検査が実施された2004年以降の推移でみるとHBV感染は、毎年4〜13例である。一方、C型肝炎ウイルス(HCV)感染は2005年、2006年、2007、2010年に1例の感染が報告されている。さらに2013年10月の厚生労働省審議会にて2009年に献血された血液にてHCVに感染した疑いのある事例が報告されている。また2013年に新鮮凍結血漿製剤によるHIV感染例が確認された。
    文責:田守 昭博
    輸血後感染症検査の実施時期と診療報酬請求について?
    A. 輸血療法の実施に関する指針には、医師が感染リスクを考慮し、感染が疑われる場合などには、ウイルス肝炎マーカーとHIV抗体検査を行うように記載されている。
    以下にその内容を要約する。

    輸血前検査 輸血後検査
    B型肝炎 HBs抗原
    HBs抗体
    HBc抗体
    HBV-DNA核酸増幅検査(NAT)
    (輸血前検査の結果のいずれもが陰性の場合、輸血の3ヶ月後に実施)
    C型肝炎 HCV抗体
    HCVコア抗原
    HCVコア抗原検査
    (輸血前検査の結果がいずれも陰性の場合又は感染既往と判断された場合、輸血の1~3ヶ月後に実施)
    ヒト免疫不全ウイルス(HIV) HIV抗体 HIV抗体検査
    (輸血前検査の結果が陰性の場合、輸血後2~3ヶ月以降に実施)


     これらの検査の診療報酬の請求にあたっては、輸血を実施した日を診療報酬明細書に記するなど、実施の理由を明確する様に留意し、輸血後検査については、「輸血後肝炎疑い(○年○月○日輸血)」とし、前提として輸血が妥当と判断される主病名が必要である (1),(2) 。
     なお、HIV抗体検査は、輸血料を算定した患者又は血漿成分製剤の輸注を行った患者に対して、一連として行われた当該輸血又は輸注の最終日から起算して、概ね2ヶ月後にHIV-1抗体検査、HIV-1,2抗体検査が行われた場合は、HIV感染症を疑わせる自他覚症状の有無に関わらず、当該輸血又は輸注につき1回に限り、所定点数を算定できる。この際、他の医療機関において輸血料の算定又は血漿成分の輸注を行った場合でも算定である。診療報酬明細書の摘要欄に当該輸血又は輸注が行われた最終日を記載する。(医科診療報酬点数表より)

    参考資料
    1)遡及調査に伴う日本赤十字社からの医療機関への情報提供等について.薬食安発第073005号、薬食監麻発0730002号、薬食血発第0730002号.平成15年7月30日
    2)熊川みどり、他.輸血前後の感染症マーカー検査についての日本輸血・細胞治療学会運用マニュアル.日本輸血細胞治療学会誌.2007;53:602-606
    文責:紀野 修一
    輸血によるHTLV-1の感染のリスクはありますか?
    A.  HTLVはウイルス粒子だけでは存在できないほど感染力が弱く、感染にはリンパ球の移行が必要である。感染経路には、母児感染、夫婦間感染、輸血感染の3つがある。1986年に供血者のHTLV-1抗体スクリーニングが実施されたが、それ以前には輸血により多くの受血者がHTLV-1に感染したと推定されている(1)。スクリーニング開始以降は、ウインドウ期による感染と考えられる1例のみが報告されている(2)。2007年1月からは、スクリーニング検査に加え、保存前白血球除去製剤が供給されているので、現在は輸血によるHTLV-1感染の確率は極めて低いと考えられる。

    【引用文献】
    1)Kamihira S, et al.; Immunoglobulin classes of antibody for human T-lymphotropic virus type-I (HTLV-I) in healthy donors and HTLV-I-associated disorders. Vox Sang. 1989; 56:168-173.
    2)Inaba S, et al.; Prevention of transmission of human T-Iymphotropic virus type 1 (HTLV -1) through transfusion, by donor screening with antibody to the virus One-year experience. Transfusion 1989; 29: 7-11.
    3)山口一成:XIII-3ヒトTリンパ向性ウイルス1型(HTLV-1). 日本輸血・細胞治療学会認定制度審議会カリキュラム委員会(編)、新版 日本輸血・細胞治療学会認定医制度指定カリキュラム, 日本輸血・細胞治療学会、東京.2012、350-352.
    文責:紀野 修一、森下勝哉
    CMV抗体陰性血はどの様な疾患に適応になりますか
    A.  輸血によるサイトメガロウイルス(CMV)感染は、献血者のリンパ球、顆粒球、単球、マクロファージなどに潜伏感染したCMVが患者に移行し、患者の体内でウイルスの活性化が起こり成立する(1)。したがって、上記細胞を多く含む製剤を輸血することで感染リスクが高まるが、現在は保存前白血球除去製剤が供給されているので、輸血による感染は稀と考えられる。
     健常人では感染してもほとんどが不顕性感染であるが、以下のような症例ではCMV感染を発症すると重篤化することがあるのでCMV抗体陰性血を適応とする場合がある。
    1)CMV 抗体陰性の妊婦、あるいは極低出生体重児に赤血球輸血、血小板輸血をする場合は、CMV 抗体陰性の赤血球濃厚液、血小板濃厚液を使用することが望ましい(2)。
    2)造血細胞移植時に患者とドナーの両者がCMV 抗体陰性の場合には、CMV 抗体陰性の赤血球濃厚液、血小板濃厚液を使用する(2)。

    【引用文献】
    1)佐藤博行;ヒトサイトメガロウイルス(HCMV). 日本輸血・細胞治療学会認定制度審議会カリキュラム委員会(編)、新版 日本輸血・細胞治療学会認定医制度指定カリキュラム, 日本輸血・細胞治療学会、東京.2012、352-353.
    2)厚生労働省医薬食品局血液対策課:血液製剤の使用指針(改定版、平成24 年3 月一部改正).
    文責:紀野 修一、森下勝哉
    輸血後にHBs抗体のみが陽性になることがありますか。
    A.  HBs 抗体陽性の場合、通常HBV既往感染、ワクチン接種後が考えられる(1)。HBs 抗体が輸血後に陽転化するのであれば、更にHBs抗体高力価の血小板製剤あるいは血漿製剤からの移行抗体による影響も考えなくてはならない。HBs 抗体は現行の日本赤十字社における献血者のウイルスに対するスクリーニングでは排除されていないためである。
     移行抗体による影響の場合は、循環血液により希釈される製剤中のHBs抗体量やHBs抗体の半減期(約21 日)を考慮した上、経過で抗体が消失するのを確認する。
     例えばHBV既往感染でない患者が、高力価の抗体1,403 IU/mL含有PC20 単位を輸血され、輸血1ヵ月後の患者にHBs 抗体が検出された(20.37 IU/mL)ケースがある。患者にワクチン投与歴はなく、その後の経過観察で抗体が完全に消失したため、PC製剤中の抗体が一時的に患者のHBs抗体検査結果に影響を及ぼしたものと考えた例である(2)。

    【引用文献】
    1)血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン(改定版)Q&A.厚生労働省医薬食品局血液対策課.平成17年3月(平成24年3月一部改正)
    2)木元宏弥、長瀬政子、高木奈央、他:輸血製剤の移行抗体によりHBs 抗体、HBc抗体が陽転化したと考えられた1例.日本輸血細胞治療学会誌.58(1):58, 2012.
    文責:紀野 修一、森下勝哉
    シャーガス病は輸血で感染しますか?
    A. シャーガス病は、中南米地域に流行地をもつサシガメ虫によって媒介されるTrypanosoma cruzi (15~20μmの鞭毛を有する原虫)が引き起こす慢性の全身疾患である。感染後1~2週間後に感染者の20%は急性症状(発熱、発疹など)を呈する。慢性化すると20~30年後に心筋の繊維化、心拡張を呈し、最終的に心不全になる(1)。欧米では輸血による感染例が報告されている。わが国では供血血液のシャーガス病の有無を確認する検査を実施していないが、平成24年10月より、下記1)~3)の質問に該当する献血者の血液は血漿分画製剤の原料血漿のみに使用することになっている(2)。
    1)中南米諸国で生まれた又は育った。
    2)母親が中南米諸国で生まれた又は育った。
    3)上記1)に該当しない方で、中南米諸国に通算4週間以上滞在した。

    【引用文献】
    1)大戸斉、遠山博: Trypanosomaによるシャガス病.遠山博、柴田洋一、前田平生、大戸斉編著、輸血学改訂第3版、中外医学社、東京.2004:686. 
    2)シャーガス病に係る安全対策について.日本赤十字社ホームページ. http://www.jrc.or.jp/blood/news/l4/Vcms4_00003218.html (2014年1月20日現在)
    文責:紀野 修一、森下勝哉
    クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)とはどのような病気か?
    A.  クロイツフェルト・ヤコブ病は世界中に広く分布する神経難病のひとつで、日本でも人口100万人に年間1人前後の率で発症する(孤発性CJD)。一方で、1995年にこれまでのCJDとは異なる症例が見つかり、変異型CJD(vCJD)と命名された。vCJDはCJDに比べ発症年齢が若いこと、発症してから死亡するまでの期間が比較的長いこと、CDJで見られる特異的な脳波が認められない等の特徴を持っている。神経症状はCJDと同じく、抑うつ、不安などの精神症状で始まり、進行性認知症、運動失調等を呈する。しかし、発症から平均18ヵ月(CJDに比べ緩徐)で全身衰弱・呼吸不全・肺炎などで死亡する。2013年7月までに英国(177人)、フランス(27人)等で計228人のvCJD発症例が報告されたが、2000年をピークに発症者数は減少している。
     vCJDの原因は、感染性を有する異常プリオンタンパクである。vCJD患者から検出されたプリオンタンパクが牛海綿状脳症(BSE)の脳から検出されたプリオンタンパクのパターンとウエスタンブロットでの解析で一致したため、両者の関係が指摘されている。
     輸血により感染しvCJDを発症したと推定された症例がこれまでに海外で4例報告されている。これらの患者は1996年〜1999年の間に白血球が除去されていない濃厚赤血球の輸血を受けたものであった。また、2009年には後にvCJDを発症した献血者の血漿から製造された血漿分画製剤(凝固第Ⅷ因子製剤)が治療に用いられ、vCJD以外の原因で死亡した当該受血者の脾臓に異常プリオンが蓄積していたことが明らかとなった。
     国内の輸血の安全性確保のため、現在英国滞在歴通算1ヵ月以上の人の献血は制限されている。さらに他の国々においてもBSE感染牛の数とvCJD発症者数に応じて、6ヵ月〜5年の通算滞在歴により献血制限が行われている。
    文責:浜口 功
    献血者のHEVの感染頻度はどのくらいですか?
    A. わが国の献血者のHEV(IgG)抗体陽性率は3.4%で、西日本より東日本のほうが高く、男性有意で加齢とともに上昇する傾向がある。北海道内で輸血後E 型肝炎が発症したのを契機に、北海道ブロック血液センター(旧北海道赤十字血液センター)では、2005 年から試行的に献血者のHEV 核酸増幅検査を実施している。 HEV RNA陽性率は0.012%で、分離されたHEV の遺伝子型は3型が約95%、4 型が約5%を占める。なお、E 型肝炎は感染症法で四類感染症に義務づけられている。毎年、死亡例も含めて50 例前後の届け出があり、その約8~9 割は国内感染事例で、その約3 割は北海道の症例である。

    【引用文献】 
    1)松林圭二, 池田久實 : XIII-1-3 HEV. 日本輸血・細胞治療学会認定制度審議会カリキュラム委員会(編)、新版 日本輸血・細胞治療学会認定医制度指定カリキュラム, 日本輸血・細胞治療学会、東京.2012、345-346.
    2)Matsubayashi K, et al.; Transfusion-transmitted hepatitis E caused by apparently indigenous hepatitis E virus strain in Hokkaido, Japan. Transfusion, 44:934-940, 2004.
    文責:紀野 修一、森下勝哉

7.管理業務
  • (1)臨床現場の実務(医師、看護師、検査技師)

    血液製剤の適正使用に関わる基準にはどのようなものがあるか?
    A. 血液製剤の適正使用に関しては、「輸血療法の実施に関する指針」「血液製剤の使用指針」「血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン」が策定されており、これまで細かな改訂が繰り返されている。最新版は2012年の改訂版であり、厚労省のHPに掲載されている(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/iyaku/kenketsugo/5.html)。日本赤十字社はこれらのガイドラインを記載した冊子版を発行しているので最寄りの赤十字血液センター医薬情報担当者に問い合わせるとよい。

    「輸血療法の実施に関する指針」には、輸血管理体制のあり方、輸血検査の進め方、T$S法、輸血副作用管理と対策、自己血輸血等について述べられている。
    「血液製剤の使用指針」には、赤血球濃厚液、血小板濃厚液、新鮮凍結血漿、アルブミン製剤の適正使用法について述べられている。 「血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン」には遡及調査への対応法が記されている。
    文責:羽藤 高明
    血液製剤によって感染症に感染した場合の救済制度はあるか?
    A. 平成16年4月1日に生物由来製品感染等被害救済制度が創設され、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が業務を担当している。制度創設以降に生物由来製品を適正に使用したにもかかわらず、その製品が原因で感染症にかかり、入院が必要な程度の疾病や障害等の健康被害について救済を行う制度で、感染後の発症予防のための治療や二次感染者なども救済の対象となる。

    また、血液製剤に混入したHIVに感染した方には、発症予防のための健康管理費用が支給される。こちらは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構が、(財)友愛福祉財団からの委託を受けて業務を担当している。
    文責:羽藤 高明
    平成24年3月に「輸血療法の実施に関する指針」「血液製剤の使用指針」の一部が改定されたが、
    主な改定点は?
    A. 全体的に大きな改訂はされておらず、限定的なものである。

    1.輸血療法の実施に関する指針
    V 不適合輸血を防ぐための検査(適合試験)及びその他の留意点
    1. 検査の実施方法
    1)血液型と不規則抗体スクリーニングの検査
    頻回に輸血を行う患者については、1週間に1回程度不規則抗体スクリーニング検査を行うことが望ましいことを追加した。
    2. 緊急時の輸血
    2)血液型が確定できない場合のO型赤血球の使用
    O型RhD陰性血が望ましいが、困難な場合はO型RhD陽性血を使用することを記載した。
    VIII 輸血(輸血用血液)に伴う副作用・合併症と対策
    1. 副作用の概 要
    1)溶血性輸血副作用
    (2)遅発性副作用
    遅発型溶血性 輸血副作用(DHTR)の具体的内容を追加した。
    2)非溶血性輸血副作用
    (1)即時型(あるいは急性型)副作用
    輸血関連循環過負荷(TACO)の記載を新たに追加した。
    参考3
    免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策の項目を新たに追加した。

    2.血液製剤の使用指針
    赤血球濃厚液、血小板濃厚液、新鮮凍結血漿の3製剤とも、6.使用上の注意の記載内容を統一した。
    II 赤血球濃厚液の適正使用
    6. 使用上の注意点
    非溶血性副作用、ABO血液型・Rh型と交差 適合試験、サイトメガロウイルス抗体陰性赤血球濃厚液に関する項目を追加した。
    III 血小板濃厚液の適正使用
    2. 使用指針
    f. 血液疾患
    (6)その他: ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin induced thrombocytopenia; HIT)」
    血小板輸血は禁忌であるとの記載から、明らかな出血症状がない場合には予防的投与は避けるべきであると、記載内容を変更した。
    文責:松本 雅則
    献血及び血液製剤に関連して新しい法律ができたと聞くがどのような内容か?
    また、法律の施行に伴い、血液製剤に関し変更があるのか?
    A. 平成14年7月に公布された「薬事法及び採血及び供血あつせん業取締法の一部を改正する法律」により、 これまでの「採血及び供血あっせん業取締法」は「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」として改正された。
    本法の目的は、「血液製剤の安全性の向上」、「安定供給の確保」、「適正使用の推進」であり、 血漿分画製剤を含む血液製剤の「国内自給」が基本理念として掲げられた。
    さらに、国、地方公共団体、採血事業者、血液製剤の製造業者及び医療関係者の責務が明記された。
    また、血漿分画製剤を含む血液製剤について、参議院厚生労働委員会で「血液製剤に関する直接の容器等の記載事項として、 採血地及び献血又は非献血の区別を記載することを義務付けること。なお、血液製剤と代替性のある遺伝子組換え製剤 についても、感染症の発生の危険性の程度等を考慮し、必要に応じて同様の措置を講ずること。」との附帯決議がなされた。
    ☆参照資料 輸血情報「0307-76」
    文責:松本 雅則
    看護師が輸血事故を防止するための重要項目とは?
    A. 輸血に携わるときには、確認が不十分で起こるミスが大きな輸血事故につながるという危険性をよく理解し、マニュアルに沿った確認や手順を徹底し、業務を行うことが重要である。輸血事故を防止するために、看護師として関与すべきは以下の7点1)である。

    ① 一患者毎に血液型について血液バッグと交差適合試験結果とカルテを照合する(一度に複数の患者の輸血を準備しない)。
    ② さらに、患者氏名、製造番号が一致し、有効期限内であることを確認する。
    ③ 患者の確認では、自分で名乗ってもらうか、リストバンドで確認する。この照合・確認はのべ3回行うことになる。
     1回目:血液の受け渡し〔出庫〕時(輸血部門において)
     2回目:輸血準備時(ナースステーションにおいて)
     3回目:輸血実施時(ベッドサイドにおいて)
    ④ 照合・確認は一人で行わない。
    ⑤ 原則として血液製剤を病棟や手術室の冷蔵庫に保管しない。
    ⑥ 輸血開始後の観察を怠らない。
    ⑦ 本人や前医の血液型申告、転送前の輸血製剤の血液型を過信しない。

    引用文献
    1)学会認定・輸血看護師制度 カリキュラム委員会編:看護師のための臨床輸血 学会認定・輸血看護師テキスト,p74,2011.

    参照資料
    輸血情報「1006-123」輸血用血液製剤の取り扱いについて
    輸血情報「0105-64」輸血過誤防止のための輸血実施手順書-日本輸血学会作成-
    輸血情報「9610-30」輸血の実際-手順とポイント-
    輸血情報「1203-131」医療事故、輸血用血液の取り扱いに関する報告の概要
    日本看護協会 医療・看護安全管理情報.輸血事故を防ぐ-施行時のチェックポイントと管理体制の整備-.協会ニュース 医療・看護安全管理情報 №6,vol 417, 2002.
    www.nurse.or.jp/nursing/practice/anzen/pdf/no_6.pdf
    文責:NTT東日本関東病院 原田千夏子
    輸血患者の観察のタイミングと輸血速度は?
    A. 輸血副作用・合併症には免疫学的機序によるもの、感染性のもの、及びその他の機序によるものがあり、さらにそれぞれの発症の時期により即時型(あるいは急性型)と遅延型とに分けられる。輸血開始時および輸血中ばかりでなく輸血終了後にも患者の観察を行い、副作用・合併症の早期発見に努める必要がある。

    1. 輸血前
     輸血前に体温、血圧、脈拍、さらに可能であれば経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定後に、輸血を開始する。

    2. 輸血中
    1) 輸血開始直後
     5分間はベッドサイドで患者を観察する。
     成人ならば、輸血開始時は1ml/分の速度で開始し、10~15分経過後は5ml/分で投与する(高齢者や心機能低下などがある場合や小児では医師の指示に従う)。

     ABO型不適合輸血では、輸血開始直後から血管痛、不快感、胸痛、腹痛などの症状が見られる。意識清明でない患者では、自覚的所見により不適合輸血を疑うことは困難または不可能であるので、呼吸・循環動態の観察の他に導尿を行って尿の色調などから不適合輸血の早期発見に努める。

    2) 輸血開始後
     輸血開始後15分程度経過した時点で再度患者の状態を観察する。即時型溶血反応の無いことを確認した後にも、発熱・蕁麻疹などのアレルギー症状がしばしば見られるので、15~30分毎に観察を続け、副作用の早期発見に努める。

    3. 輸血後
     輸血関連急性肺障害(TRALI)、細菌感染症では輸血終了後に重篤な副作用を呈することがあり、輸血終了後も患者を継続的に観察する。

    文献
     厚生労働省医薬食品局血液対策課.「輸血療法の実施に関する指針」(改訂版).平成17年9月(平成24年3月一部改正).
     佐藤エキ子,加藤恵子,寺井美峰子 他編.安心・安全 ナースのための輸血ケア.中山書店.p70.2010.

    参照資料
    輸血情報「1310-137」赤十字血液センターに報告された非溶血性輸血副作用-2012年-
    文責:原田 千夏子
    溶血による輸血事故を防ぐための注意点は?
    A. 溶血した血液製剤の輸血は重篤な副作用を引き起こす。赤血球製剤の溶血の原因を知り、十分に注意して血液製剤を取り扱うことが重要である。

    溶血の原因と防止対策
    ① 過冷(血液は-3℃以下に冷却されると次第に冷結し溶血する)
    →保冷庫の温度管理(2~6℃)が重要。

    ② 細菌汚染(溶血毒素をもつ細菌で汚染された血液は著しく溶血する)
    →製剤の外観チェック(変色、異臭など)を行う。

    ③ 加熱(血液は42℃以上に熱せられると溶血する)
    →通常の輸血では製剤を加温する必要はない。急速大量輸血などで加温が必要な場合は、37℃を超えないよう温度管理を厳重に行う。

    ④ 物理的障害(血液は細い針または白血球除去フィルター等使用時に強い力で加圧・吸引すると溶血することがある)
    →加圧・吸引が必要な場合は慎重に行う。

    ⑤ 薬剤との混注(糖単独輸液やブドウ糖加電解質液を混ぜると血液製剤は溶血する)
    →輸血は単独で行う。薬剤との混注は避ける。

    血管確保が不可能な場合等に、やむを得ず留置針を介して点滴ライン側管から輸血する場合の注意点
    ・輸血開始前後に生理食塩液でラインをリンスする。
    ・点滴ライン合流部(三方活栓部等)から留置針までのラインを短くする。

    参照資料
    輸血情報「9612-32」 溶血による輸血事故防止のために
    輸血情報「9609-29」 輸血用血液製剤と薬剤の混注は避けてください
    文責:原田 千夏子
    記録の保存期間が20年になったのはなぜ?
    A. 特定生物由来製品    20年
    理由 クロイツフェルト・ヤコブ病も含め、感染症の把握性を高めるため。

    安全対策において、感染者が出始めたところで、速やかに措置をする観点からは、想定される感染症の大方の潜伏期間をカバーする保存期間が最低限必要
    行政への報告、さらなる二次感染等の防止の対応
    1)ウイルス性の感染症であれば、10年   (生物由来製品)
    2)プリオン型の感染症であれば、20年   ((特定生物由来製品)

    1) の理由
    生物由来製品において対象となる主たる成分である動物原料に関連する人獣共通感染症については、予測が難しいが、病態の進展の期間が比較的長く、遅くとも約10年で70%以上の無症候キャリアが慢性肝炎、肝癌等に移行する経過をたどるHCVを参考とした期間

    2) の理由  プリオン型の感染症の過去の感染事例と平均潜伏期間と幅
    人角膜移植       視神経  17ヶ月(16-17年)
    人乾燥硬膜       脳表面  5.5年 (1.5-12年)
                     7.4年 (1.3-16年)
    人成長ホルモン(脳由来)血中   12年(5-30年)
                     12年(5-39年)
    人ゴナドトロピン    血中   13年(12-16年)

    プリオン型の感染症を想定した場合の将来に渡る潜伏期間と人数の推定について 英国におけるBSE原因説に基づく、将来的な感染推計においては、0.2%に 発生するとも推計されている。
    最大人口の0.2%の確率での輸血に由来する感染が起こりうるという最悪の シナリオにもとづいて想定すると、国内でも最大1万1600人が感染すると推定される。
    最も遅い感染者の発生時期を予測するため、現在の硬膜移植のCJDに関する潜伏期間データの分散を正規分布にあてはめ、1万1600人の感染者の発生の潜伏期間の分布を予測すると、感染20年後で35人程度、30年とすると一人未満(0.00026人)となる。30年の記録の保存期間を設定すれば、CJD型の疾患であっても統計的には感染を捕捉することが可能という計算となる。
    感染症に関する記録の保管に係る改正薬事法68条の9(要旨)
    生物由来製品、特定生物由来品の製造記録(新法第14条第6項/法第13条の2)
    使用記録(法第68の9第8項)
    文責:今野 マユミ
    輸血副作用発生時調査に提供が必要な検体と書類はどのようなものか?
    A. <院内用>
    血液製剤と患者の照合間違いの有無を確認するために、血液製剤ラベル、 輸血伝票(適合試験確認報告書)、患者名(リストバンド等)を確認する。
    1輸血バッグと輸血セットを輸血部門に二次的な細菌感染を避けて送付する。
    (同一ルートで投与された薬剤がある場合は回収する。)
    (適合試験確認報告書のコピーを送付する。)
    2副作用発生時の患者の検査用採血と尿検体の採取を行い輸血部門に送付する。
    (EDTA採血管、プレーン採血管に各2-5ml)
    Hb値(低下≧2g/dl)LDH(上昇:≧1.5倍)ハプトグロビン値(低下)
    間接ビリルビン(上昇≧1.5倍)直接グロブリン試験(陽性)交差適合試験(陽性)

    輸血用ラインは取りはずし、輸液用ラインとして使用するため抜針はしない。

    <日本赤十字社にお願いするもの>
    1副作用・感染症記録(薬事法に基づき厚生労働省等へ報告)
     患者情報全般
    2溶血性副作用調査票
    事前検査
    交差適合試験  主試験  副試験
    不規則性抗体スクリーニング
    副作用発生後の検査
    交差適合試験  主試験  副試験
    ABO・Rh型確認
    不規則性抗体スクリーニング
    直接抗グロブリン試験
    解離試験
    患者が不規則抗体陽性の場合、輸血血液の対応抗原
    臨床検査値
    血液検査
    尿検査
    その他

    3呼吸困難調査票
       血液ガス検査  X線  CT  エコー  血球検査  生化学検査
       その他

    患者の状態により1~3の必要用紙に必要項目を記入して患者血液(プレーン管5ml)1本を添えてお願いする。
    血液製剤バッグがある場合は添えること。
    文責:今野 マユミ
    放射線照射血の取り扱い(廃棄方法)について
    A. 照射血自体が放射能を持つわけではないので、未照射血と同様に感染性廃棄物として処理する。
    文責:友田 豊
    副作用・感染症が発生したとき血液センターへの報告はどうすればよいか?
    A. 輸血用血液製剤または血漿成分製剤の使用により輸血副作用や輸血後感染症が疑われた場合、直ちに院内の輸血部門に連絡する。担当医師および輸血専任医師は輸血副作用の重症度などを評価し、重篤と判断された場合は血液センターへ報告する。
    報告書は、下記のような様式がある
     1.「副作用・感染症記録」
     2.「ウイルス感染調査票」
     3.「呼吸困難調査票」
    報告書には、概ね次の情報の記載が必要である。
    1.施設名・担当医師名
    2.輸血した血液・血漿製剤情報
    3輸血実施状況(投与日、単位数、輸血速度、輸血歴など)
    4患者情報
    5副作用情報・経過
    6臨床検査データ
    7担当医師の見解

    なお、重篤な副作用(後遺症、入院期間の延長、死亡など)の場合は、厚生労働大臣への報告(医薬品安全性情報報告書)も必要となる。

    参考資料
    輸血副作用対応ガイドVer. 1.0, 2011/01/31
    文責:東谷 孝徳
    特定生物由来製品の使用記録について教えて欲しい
    A. 平成9年6月3日付で厚生省通達「血液製剤に関する記録の保管・管理について」が出され、平成9年9月1日より血液製剤(輸血用血液製剤及び血漿分画製剤)投与患者に付いて、診療録とは別に専用の血液製剤管理簿を作成することになった。
    将来、投与による患者へのウイルス等の感染の恐れが生じた場合、投与患者への連絡が必要になる可能性があることによる。
    管理簿には、血液製剤の製品名、投与日(又は調剤日)、患者の氏名・住所を記載し、当面10年間、適切に管理・保管することが義務付けられた。

    その後、平成15年7月30日より薬事法及び採血及び供血あっせん業取締法の一部を改正する法律(改正薬事法及び安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律)が施行されたことに伴い、前述の厚生省通達は廃止され、新たに、特定生物由来製品を使用した際は、薬事法施行規則第62条の11に定める事項を使用した日から起算して少なくとも20年間記録・保管しなければならないとされた。

    薬事法施行規則第62条の11に定める事項
    ・使用の対象者の氏名及び住所
    ・特定生物由来製品の名称及び製造番号又は製造記号
    ・特定生物由来製品の使用の対象者に使用した年月日
    ・その他特定生物由来製品に係る保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するために必要な事項

    なお、定生物由来製品の使用記録は、電子記録として保管することも可能であるが、遡及調査を円滑に行うために、記録が改ざんできない状態で、かつ、常に書面において速やかに確認できることが確保されている必要がある。

    参考資料
    血液製剤に関する記録の保管・管理について(厚生省、平成9年6月3日、薬企第55号・薬安第72号)

    薬事法及び採血及び供血あっせん業取締法の一部を改正する法律の一部の施行について〔薬事法〕(平成15年5月15日、医薬発第0515017号)

    特定生物由来製品に係る使用の対象者への説明並びに特定生物由来製品に関する記録及び保存に係るQ&Aについて〔薬事法〕(平成15年7月2日、薬食安発第0702001号・薬食血発第0702001号)

    輸血情報9906-49、0307-76
    文責:安藤 髙宣
    特定生物由来製品について教えて欲しい
    A. 平成15年7月30日から施行された改正薬事法により、ヒト又は動物の細胞・組織等に由来する原材料を用いて製造される製品が「生物由来製品」として位置付けられた。その中で、感染症の発生リスクが高く、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するための措置を講ずることが必要なものが「特定生物由来製品」として指定される。

    特定生物由来製品は主にヒトの血液や組織に由来する原料又は材料を用いた製品であり、輸血用血液製剤、血漿分画製剤、人胎盤抽出物等がある。特定生物由来製品は、特生物とラベル表示され、「献血」、「非献血」の区分及び採血国が表示される。

    特定生物由来製品の使用に際しては、以下の注意が必要である。
    ①患者への適切な説明(説明と同意;薬事法第68条の7)
    ②使用記録の作成、保管(記録の20年間保管;薬事法第68条の9)
    ③感染症等情報の報告※(重篤な副作用の直接報告;薬事法第77条の4の2 第2項)
    ※医薬品の使用により次の副作用等を認めた場合は、直接厚生労働省(具体的には、独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に報告する。
    ・死亡、障害、治療のための入院又はその延長が起こったとき
    ・使用対象者の子に先天異常が認められたとき
    ・感染症が起こったとき
    ・添付文書に記載されていない事象が起こったとき

    参考資料
    医療関係者のための改正薬事法・血液法説明資料
    http://www.mhlw.go.jp/qa/iyaku/yakujihou/index.html

    血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン(厚生労働省医薬食品局血液対策課、平成17年3月(平成24年3月一部改正))

    薬事法及び採血及び供血あっせん業取締法の一部を改正する法律の一部の施行について〔薬事法〕(平成15年5月15日、医薬発第0515017号)

    輸血情報0307-76
    文責:安藤 髙宣
    血液製剤等に係る遡及調査ガイドラインに基づき製造販売業者等から情報提供があった場合の対応は
    A. 次のようなケースで日本赤十字社など製造販売業者等から情報提供があった場合、医療機関として以下に示す対応が必要である。
    ・他の医療機関において副作用感染症報告が行われた製剤と同一供血者由来の輸血用血液製剤が提供されていた場合
    ・献血後の検査により病原体(HBV、HCV、HIV)の感染が判明した供血者から過去に採取された血液に由来する輸血用血液製剤が提供されていた場合
    ・血漿分画製剤の製造後、個別NAT陽性の血液が混入していたことが判明し、製造工程においてウイルスが十分に除去・不活化されることが確認できない場合
    ・血漿分画製剤で感染症発生と因果関係が否定できない場合において、同一ロットの製剤が提供されていた場合

    ○医療機関での対応
    1.対象製剤が未使用の場合
     対象製剤が未使用であることを製造販売業者等に連絡し、回収させる。なお、緊急時の場合においては、患者の救命を優先する。
    2.対象製剤が使用されていた場合
    (1)輸血前後の感染症検査が指針に基づいて行われている場合
    ①患者が非陽転の場合
    対象患者に対し、検査結果及び製剤が投与された事実を伝え、患者の健康状態について、少なくとも投与後6か月間(病態等必要に応じて引き続き)、注意深くフォローアップする。
    ②患者が陽転の場合
     対象患者に対し、検査結果及び対象製剤のリスク評価(血液製剤等に係る遡及調査ガイドラインを参照)の結果を説明するとともに必要に応じ適切な医療を提供する。
     製造販売業者等に対し、個人情報の保護に留意しつつ、検査結果及び健康情報を提供する。また、保健衛生上の危害発生又は拡大の防止に必要と認める場合は、厚生労働省(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に直接副作用感染症報告する。
     輸血用血液製剤等については、患者から採取した輸血後患者血液(血漿又は血清2mL程度)を速やかに日本赤十字社に提供する。
    (2)輸血前後の感染症検査が指針に基づいて行われていない場合
    患者に対し対象製剤が投与された事実及び当該対象製剤のリスク評価(血液製剤等に係る遡及調査ガイドラインを参照)の結果を説明するとともに、輸血用血液製剤の場合は、指針に基づき保管検体について輸血前後の感染症検査を実施し、その結果を説明する。検査後は、上記(1)の対応に準じる。
    血漿分画製剤の使用による感染が疑われる場合であって保管検体がある場合は、医療機関で検査を実施するか、又はプライバシーを配慮した上で、当該検体を製造販売業者等に提供する。

    参考資料
    血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン(厚生労働省医薬食品局血液対策課、平成17年3月(平成24年3月一部改正))
    文責:安藤 髙宣
    赤血球液(RBC)の輸血が必要になった場合の輸血前検査手順は?
    A.
    1.患者のABO血液型およびRhD血液型を検査する(原則として異なる時点で採血した2本の検体で二重チェックを行い、検査結果を確認する)。
    2.患者の不規則抗体スクリーニングを実施する。
    結果が陽性であれば、抗体同定検査を実施し、臨床的意義のある不規則抗体が検出された場合は、対応する抗原陰性の赤血球液を血液センターに発注する。
    不規則抗体を保有する場合は、抗体の同定および抗原陰性血の準備に時間がかかることもあるため、輸血の可能性がある患者に対しては、予め不規則抗体スクリーニングを実施しておくことが望ましい。
    3.交差適合試験を実施し、結果が適合であれば輸血する(患者の血液型が、異なる時点で採血した検体の二重チェックにより確認されていれば副試験を省略してもよい)。
    交差適合試験には、輸血予定日に先立つ3日以内に採血された検体を用いる。
    患者のABOおよびRhD血液型が確認済みで不規則抗体陰性など一定の条件を満たせば交差適合試験を省略することができる(コンピュータクロスマッチ)。
    4.輸血前の患者検体を保管(-20℃以下で約2年間)し、輸血前感染症検査を実施する。
    ※輸血の概ね3か月後に輸血後感染症検査を実施する(同時に輸血後患者検体も保管することが望ましい)
    文責:安藤 髙宣
    自動輸血検査装置について教えてください
    A.  自動輸血検査装置は、現在、カラム凝集法によるものとマイクロプレート法(直接凝集法および固相法)が販売されている。また、カラム凝集法は、ゲルカラムとビーズカラムの2種類の方法による装置がある。
     自動輸血検査装置は全自動と半自動の装置があり、全自動装置は、検体に貼付したバーコードラベルにより、依頼情報の取得、検体の分注、結果判定、結果入力まで人手を介さず行えるため、事務的エラーが回避でき医療安全の観点から有用とされる(正しく管理された全自動装置で血液型検査を行った場合は、検査のダブルチェックを行わないでその結果を採用してもよい)。
     自動輸血検査装置は、省力化が可能であり、医療安全上も大変有用であるが、装置導入費用(オンライン費用も含め)、試薬代など、従来法に比べコストがかかる。なお、緊急時の血液型検査などは、従来法の方が短時間で実施可能なことより、柔軟に運用することが望ましい。
    文責:安藤 髙宣
  • (2)輸血同意書

    血液製剤使用時のインフォームド・コンセント(説明と同意)は必要か?
    A. 必要である。

     輸血療法は、適正に行われた場合には救命に役立つ極めて有効な治療である。近年の安全対策の推進により血液製剤の安全性は飛躍的に向上したが、輸血に伴う副反応や合併症を根絶することは困難である。血液製剤使用時には、その有効性および安全性について十分に説明し理解を得ること、いわゆるインフォームド・コンセント(IC)が必要である。厚生省(現在の厚生労働省)は、1989年に「輸血療法の適正化に関するガイドライン」を局長通達し、輸血におけるICの意義と重要性を示した。1997年には、赤血球製剤や血小板製剤使用時にはその必要性、危険性等について文書による説明を行い、同意書を残すことが診療報酬における輸血料の算定要件となったことにより実質的に義務化された。新鮮凍結血漿は保険請求では「点滴注射及び中心静脈注射」に分類され、文書による同意書を取得した場合に「血漿成分製剤の輸注に伴う注射料」を算定できるようになった。血漿分画製剤についても今後義務づけられることが予想されている。
     2003年施行の改正薬事法で、輸血用血液製剤および血漿分画製剤などの特定生物由来製品を使用する場合は、医療従事者(看護師、薬剤師も含む)により、その製品のリスクとベネフィットについて患者(またはその家族)に十分に説明を行い、理解を得ることが義務づけられた。「輸血療法の実施に関する指針」(改訂版)では、患者が理解できる言葉で、輸血療法に関わる以下の項目などを十分に説明し同意を得るように勧められている。①輸血療法の必要性と有効性、②使用予定の血液製剤の種類と使用量、③血液製剤を使用しなかった場合の危険性・不利益、④緊急時の血液製剤の選択、⑤輸血に関するリスク(副作用・合併症)、⑥自己血輸血の選択肢、⑦輸血の安全性確保のための検査と検体保管、⑧投与記録の保管と遡及調査時の使用、⑨副作用・生物由来製品感染等被害救済制度と給付の条件、⑩血漿分画製剤の原料血漿の採血国、献血・非献血の別、⑪使用する血漿分画製剤の製造方法(ヒト血漿由来製品か、遺伝子組換え製品)、⑫その他、輸血療法の注意点など。
    なお、同意書の取り方は一連の輸血につき1回とされている。

    ☆参照資料:輸血療法の実施に関する指針、輸血情報(診療報酬特別号1204)
    文責:牧野 茂義
  • (3)輸血関連の保険

    輸血に伴う診療報酬はすべて出来高払いですか?
    A.  輸血は手術(K)のなかに分類され、手術の有無にかかわらず出来高払いである(資料1)。ただし、輸血として扱われるのは赤血球製剤(全血製剤や貯血式自己血を含む)と血小板製剤のみで、血漿製剤(新鮮凍結血漿など)は注射(G)薬として扱われ、DPC病院においては包括化される.輸血に伴う診療報酬項目(輸血料:K920)には、1)薬剤料(赤血球、血小板、自己血)、2)輸血手技料、3)検査料(免疫血液、交差適合試験、感染症免疫)、4)自己血貯血料、5)血小板洗浄加算、6)輸血管理料(及び加算)がある。


    資料1 輸血業務の診療報酬
    文責:半田 誠
    新鮮凍結血漿(FFP)の輸血に伴う診療報酬について教えてください。
    A. 診療報酬上は、FFPはアルブミンなどと同じく点滴注射(G004)として扱われるが、薬事法上は輸血用血液製剤として扱われるため事前の説明と同意が必要であることから、薬剤料と点滴注射料に加えて、初回の使用時に限って血漿成分製剤加算(50点)が加算される(算定基準は設問5-2を参照).しかしながら、注射薬に分類されるため、DPC病院では入院患者に使用する場合は包括化される.したがって、DPC病院においては、手術に使用する場合は薬剤料のみ出来高請求ができるため持ち出しにはならないが、手術以外の使用はすべて包括化されるために、日本赤十字社に支払う薬剤料(薬価差益なし)は持ち出しとなる(資料2)。

    資料2 新鮮凍結血漿(日赤)の輸血(輸注)の収支
    文責:半田 誠
    不規則抗体検査の算定基準を教えてください。
    A.  不規則抗体検査は、免疫血液学検査(D011)に分類され、スクリーニング及び抗体同定検査をすべて含んでいるものとして扱われている.検査は、輸血に伴うことを原則として、検査回数にかかわらず月1回算定(200点)できる.ただし、頻回に輸血を行う場合は、1週に1回を限度(最大月に4回)として算定できる.また、輸血に伴わない(結果として輸血を行わなかった)場合でも、対象となる手術におけるタイプ&スクリーニングの目的で行われた検査は、算定(162点)できる.輸血歴又は妊娠歴のある患者で、指定された胸部手術、心・脈管手術、腹部手術または産婦人科手術(子宮全摘術、悪性腫瘍手術、帝王切開など)に限って算定される.一方、血液型不適合妊娠や出産に伴う検査は算定できない。
    文責:半田 誠
    輸血管理料におけるアルブミンの取り扱いを教えてください。
    A.  輸血管理料及び適正使用加算は、指定された要件(資料3)を満たす施設において、輸血用血液製剤と貯血式自己血に加えてアルブミンを使用した患者一人につき、月1回算定できる(算定基準はQ170を参照).とくに、大規模施設を対象とした輸血管理料Ⅰの施設基準には、輸血用血液製剤及びアルブミンの一元管理が要件項目として指定されている.アルブミンの一元管理は、原則として輸血用血液製剤と同一の輸血部門で行われるべきであるが、当分の間は、薬剤部において保管されている場合であっても、アルブミン製剤の請求や払出し等の管理が輸血部門で行われていれば差し支えない。

    資料3 輸血管理料と加算の概略
    文責:半田 誠
    輸血に関する主要な診療報酬項目と算定基準を教えてください。輸血に伴う輸血料の算定基準は?
    A.
    ・保存血液輸血 血液センターからの輸血用血液を輸血した場合

    6歳以上
    1. 1回目 最初の200mLまで 450点
    2. 2回目以降 200mLを超え200mLごとに 350点

    6歳未満 (26点加算する)
    1. 1回目 200mLまで 476点
    2. 2回目以降 200mLを超え200mLごとに 376点


    1. 1回目とは、一連の輸血における最初の200mLの輸血をいい、2回目とはそれ以外の輸血をいう。なお、算定に当たっては、200mL単位として200mL またはその端散を増すごとに所定点数を算定する。
    2. 輸血に伴って、患者に対して輸血の必要性、危険性等について文書による説明を行った場合に算定する。なお、説明は患者に対する一連(概ね1週間〉の輸血につき1回行うものとし、再生不良性貧血、白血病等の患者の治療において、輸血の反復の必要性が明らかである場合はこの限りでない。
    3. 血漿成分製剤(新鮮液状血漿、新鮮凍結血漿等)は注射の部において取り扱われる。
    4. 輸血セット、輸血用針、輸血に伴って血液を保存する費用は所定点数に含まれ、別に算定できない。

    〈交換輸血〉    5.250点 1回につき算定する。
    〈血小板洗浄術〉  580点

    血液造血器疾患において、副作用の発生防止を目的として、血小板濃厚液を置換液等で洗浄操作した上で血漿成分を除去し輸血を行った場合に算定する。

    ・自己血輸血  患者から採血した血液を患者本人に輸血した場合。貯血と輸血に分けて算定する

    自己血貯血
    a. 液状保存
    1. 6歳以上の患者の場合 200mLごとに 250点
    2. 6歳以上の患者の場合 体重1㎏につき4mLごとに 250点
    b. 凍結保存
    1. 6歳以上の患者の場合 200mLごとに 500点
    2. 6歳以上の患者の場合 体重1㎏につき4mLごとに 500点

    自己血輸血
    a. 液状保存
    1. 6歳以上の患者の場合 200mLごとに 750点
    2. 6歳以上の患者の場合 体重1㎏につき4mLごとに 750点
    b. 凍結保存
    1. 6歳以上の患者の場合 200mLごとに 1,500点
    2. 6歳以上の患者の場合 体重1㎏につき4mLごとに 1,500点


    1. 自己血貯血は、医療機関において手術を予定している患者から採血を行い、血液を保存した場合に算定する。
    2. 自己血輸血は、手術を行う際に予め貯血しておいた自己血(自己血貯血)を輸血した場合において、手術時及び手術後3日以内に輪血を行ったときに算定できる。
    3. 自己血輸血を算定する単位としての血液量は手術開始後に実際に輸血を行った1日当たりの量であり、使用しなかった自己血については算定できない。
    4. 自己血を採血する際の採血バッグ並びに輸血する際の輸血用回路及び輸血用針の費用並びに自己血の保存に係る費用は、所定点数含まれ別に算定できない。なお、自己血の採血に伴うエリスロポエチンに係る注射実施料については、自己血貯血の所定点数とは別に算定する。

    〈術中術後自己血回収術〉 4.500点  自己血回収器具によるもの。
    1. 併施される手術の所定点数とは別に算定する。
    2. 使用した術中術後自己血回収セットの費用は所定点数に含まれる。
    3. 開心術、大血管手術やその他無菌的手術で出血量が’600mL以上(ただし、12歳未満の患者においては10mL/kg)の場合 (外傷及び悪性腫瘍の手摘を除<)に算定する。
    文責:半田 誠
    輸血に関する主要な診療報酬項目と算定基準を教えてください。新鮮凍結血漿を輸注した時の算定基準は?
    A. 新鮮凍結血漿の輸血量の算定は点滴注射及び中心静脈注射の項により算定する。

    注射料 年齢 輸注量 点数
    点滴注射
    6歳以上 500mL未満 47点
    500mL以上 95点
    6歳未満 100mL未満 89点
    100mL以上 137点
    中心静脈注射
    6歳以上 - 140点
    6歳以上 - 190点

    1. 1回につき算定する。
    2. 血漿成分製剤の注射を行う場合であって、1回目の注射に当たって、患者に対して注射の必要性、危険性等について、文書による説明を行った場合は当該注射を行った日に限り、50点を加算する。
    3. 点滴注射及び中心静脈注射の回路にかかる費用は所定点数に含まれ、別に算定できない。

    〈血漿交換療法〉   4,200点
    1. 1日につき算定する(血漿交換療法を夜間に開始し、午前0時以降に終了した場合は、1日として算定する)。
    2. 肝不全、血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群などの、遠心分離法等により血漿と血漿以外とを分離し、二重濾過法、血痕吸着法等により有害物質等を除去する療法(血漿浄化法)を行った場合に算定する。
    文責:半田 誠
    輸血に関する主要な診療報酬項目と算定基準を教えてください。
    輸血に伴って実施した検査の診療報酬算定について
    A. 輸血に伴う検査料を加算する。

    1. 患者の血液型検査(ABO式及びRh式) 48点
    (ABO血液型亜型) 260点
    2. 不規則抗体検査(検査回数にかかわらず1月につき) 200点
    3. 交差適合試験(輸血した血液1バッグにつき) 30点
    4. 間接クームス試験(輸血した血液1バッグにつき) 34点
    5. HLA型適合血小板輸血に伴うHLA型検査
    HLA型クラスⅠ(A,B,C) 1,000点
    HLA型クラスⅡ(DR,DQ、DP) 1,400点
    6. 抗血小板抗体 270点
    7. HIV-1抗体 120点
    8. HIV-1.2抗体定性、半定量又は定量
    HIV-1.2抗原。抗体同時測定定性又は定量
    127点
    9. 抗HLA抗体検査(造血幹細胞移植を行う場合) 4.000点

    1. 不規則抗体検査は検査回数にかかわらず1月につき輸血料に加算する。ただし、頻固に輸血を行う場合は、1週間に1回を限度として加算する。
    2. HLA型検査は、白血病又は再生不良性貧血の場合で、抗HLA抗体のために血小板輸血に対して不応状態となり、 かつ強い出血傾向を呈しているときに、検査回数にかかわらず一連につき輸血料に加算する。なお、この場合において、 対象となる白血病及び再生不良性貧血の患者の血小板数はおおむね、 それぞれ2万/㎜3以下及び1万/㎜3以下を標準とする。
    3. HIV関連検査は、輸血料(自己血輸血を除く)を算定した患者又は血漿成分製剤(新鮮液状血漿、新鮮凍結人血漿等)の輸注患者に、一連として投与された最終日から概ね2月後に行ない、HIV感染症を疑わせる自他覚症状の有無に関わらず、1回に限り加算できる.
    文責:半田 誠
    輸血に関する主要な診療報酬項目と算定基準を教えてください。輸血管理料の算定について
    A. 厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、輸血を行った場合に、月1回を限度として、当該基準に係る区分に従い、それぞれ所定点数を算定する。また、輸血製剤が適正に使用されている場合には、輸血適正使用加算として、同区分に従い所定点数に加算する。

    輸血管理料

    1.輸血管理料Ⅰ  220点

    1. 当該保険医療機関の輸血部門において、当該保険医療機関の輸血業務全般に関する責任者として専任の常勤医師が配置されていること。
    2. 当該保険医療機関の輸血部門において、臨床検査技師が常時配置されており専従の常勤臨床検査技師が1名以上配置されていること。
    3. 当該保険医療機関の輸血部門において、輸血用血液製剤及ぴアルブミン製剤(加熱人血漿たん白を含む)の一元管理がされていること。
    4. 次に掲げる輸血用血液検査常時実施できる体制が構築されていること。ABO血液型、Rh(D)血液型、血液交差試験又は間接Coombs検査、不規則抗体検査
    5. 輸血療法委員会が設置され、年6回以上開催されるとともに、血液製剤の使用実態の報告される等、輸血実施に当たっての適正化の取組がなされていること。
    6. 輸血前後の感染症検査の実施又は輸血前の検体の保存が行われ.輸血に係る副作用監視体制が構築されていること。
    7. 5、6及ぴ血液製剤の使用に当たっては、「「輸血療法均実施に関する指針」及び「血液製剤の使用指針」の一部改正について」(平成21年2月20日付薬食発第0220002号厚生労働省医薬食品局長通知〉を遵守し適正に実施されていること。特に、血液製剤の使用に当たっては、投与直前の検査値の把握に努めるとともに、これらの検査値及び患者の病態を踏まえ、その適切な実施に配慮されていること。

    2. 輸血管理料Ⅱ 110点

    1. 当該保険医療機関の輸血部門において、当該保険医療機関の輸血業務全般に責任を有す常勤医師を配置していること。
    2. 当該保険医療機関の輸血部門において、専任の常勤臨床検査技師が1名以上配置されていること。
    3. 当該保険医療機関の輸血部門において輸血用血清製剤の一元管理がなされていること。
    4. 輸血管理料Iの施設基準のうち、4から7までのすべてを満たしていること。

    輸血適正使用加算
    1. 輸血管理料Ⅰを算定する医療機関  120点

    新鮮凍結血漿の使用量を赤血球濃厚液の使用量で除した値が0.54未満であり、かつ、アルブミン製剤の使用量を赤血球濃厚液の使用量で除した値が2未満であること。なお、新鮮凍結血漿の使用量を赤血球濃厚液の使用量で除した値は次により算出すること。
    ① 赤血球濃厚液の使用量 ②血漿交換療法における新鮮凍結血漿の使用量
    ③ 新鮮凍結血漿の使用量 ④アルブミン製剤の使用量
    (② -③/2)/①=0.54未満、④/①=2未満)

    2.輸血管理料Ⅱを算定する医療機関 60点

    新鮮凍結血漿の使用量を赤血球濃厚液の使用量で除した値が0.27未満であり、かつ、アルブミン製剤の使用量を赤血球濃厚液の使用量で除した値が2未満であること。なお、新鮮凍結血漿の使用量を赤血球濃厚液の使用量で除した値は次により算出すること。
    ① 赤血球濃厚液の使用量 ②血漿交換療法における新鮮凍結血漿の使用量
    ② 新鮮凍結血漿の使用量 ④アルブミン製剤の使用量
    (②-③/2)/①=0.27未満、④/①=2未満)

    1. 輸血管理料は輸血療法の安全かつ適正な実施を推進する観点から、医療機関における輸血管理体制の構築及び輸血の適正な実施について評価を行うものである。
    2. 輸血管理料は、赤血球濃厚液(浮遊液を含む)、血小板濃厚液若しくは自己血の輸血、又は新鮮凍結血漿若しくはアルブミン製剤の輸注を行った場合に、月1回を隈度として算定する。
    3. アルブミシ製剤の使用量は、使用重量(g)を3で除して得た値を単位数とする。また、自己血輸血〈貯血式)については、総血量200mLを赤血球濃厚液1単位相当とみなし、赤血球濃厚液の使用量として計上する。さらに、新鮮凍結血漿については、輸血量120mLを1単位相当とみなす。

    平成26年4月改定の診療報酬点数表に基づいた。☆参考資料:輸血情報 診療報酬特別号1404 ,日本赤十字社 血液事業本部 学術情報課
    文責:半田 誠
  • (4)輸血療法委員会

    輸血療法委員会の設置の理由は何でしょうか?
    A. 輸血は特定生物由来製品である輸血用血液製剤を投与する補充療法であり、副作用も含めて、各医療機関のあり方に沿って一貫した輸血療法に関する業務体制とその管理体制を構築する必要があります。そのために、輸血療法委員会だけでなく、専任医師の任命、輸血部門の設置、担当技師の配置が推奨されています。
    参考資料:輸血療法の実施に関する指針(平成21年2月20日)
    文責:吉場 史朗
    輸血療法委員会のメンバー構成に決まりはありますか?
    A. 委員長は医療機関管理者または外科系医師(麻酔科医を含む)が望ましく。参画委員には輸血使用量の多い診療科の責任者、輸血担当技師、輸血使用量の多い病棟の看護師、薬剤師、医事課(保険診療に係る事務職員)を参画させることが望ましいです。
    参考資料:血液製剤の適正使用推進に係る先進事例等調査結果及び具体的強化方策の提示について(平成17年6月6日、厚生労働省医薬食品局血液対策課長 通知)
    文責:吉場 史朗
    輸血療法委員会ではどのような事項を検討すればよいのでしょうか?
    A. 討議される事項として大きく5つあります。
    1. 血液製剤(アルブミン製剤も含む)の使用状況(廃棄量も含む)について、診療科ごとの検討を行い、診療科内に掲示する。
    2. 製剤ごとに月別・年次別の使用量を院内で比較・分析し、他の医療機関との比較も検討・評価する。
    3. 輸血医療に係る各種指針の遵守状況について各診療科・病棟等から報告・検討する。
    4. 輸血実施症例(特に大量輸血症例や不適切使用と考えられる症例)の検討と使用指針に基づいた評価を行うこと。
    5. 必要に応じて、保険診療での査定状況も症例ごとに検討する。
    *その他に輸血インシデント、副作用報告とその対策、院内の輸血実施手順・院内採血・自己血採血手順作成、輸血用血液の選択基準(検査法含む)、最新の輸血関連情報の連絡・周知なども輸血療法委員会で検討されるべき事項です。
    参考資料:血液製剤の適正使用推進に係る先進事例等調査結果及び具体的強化方策の提示について(平成17年6月6日、厚生労働省医薬食品局血液対策課長 通知)
    文責:吉場 史朗